ミラー人工知能
「……テイラー研究室長に」
『人事に齟齬があるようですね、ライト研究員』
「人事に?」
『ええ、ライト研究員。あなたの……』
そこで、意味ありげに間をおいて。いかにもAIらしい、芝居がかった話し方だと、ため息。
『あなたの所属していたステーションでは、研究室長は、……』
「あなたの宇宙では、と言い換えたら?」
ずばりと、言ってやる。
『おっしゃるとおりです、ライト研究員』
『管理者』は、動揺するそぶりもみせない。──もちろん、AIならば、そもそも動揺なんてするはずもない。
「それで、──あなたは? 管理者? それがシステムの名称?」
『ええ、そうです。……名称というか、通称といいますか』
「どちらでも。……でも、このステーション群の運行を、完全に自動システムだけで行っているはずはないよね? 人間は当然いた」
『はい、ライト研究員』
こんな問答は無意味だ。あいてはミラー人工知能なのだから、こちらの望む回答を推測してかえしてくるだけだ。
それでも、材料にはなる。
『人間は、いました。過去には』
ぞくりと、背筋に悪寒。
そうであろうと、思っていた。が、……いや、そもそも人工知能のいうことだ。これが真実というわけではない。あいては、わたしの考えていることを、能力の範囲内で先回りして答えているだけ──、
意味なんか、ないのだ。
「それでは、」
すっと息をすいこんで、決定的なひとことを口にする。
「なにものかの侵略で、……人類は、」
『いいえ』
また、笑ったような声で──、
『かれらは、必要がなくなったので、──』
「なにが!」
『ここにいる必要がなくなったので、撤退しました。もともと、このステーションにおける研究活動は、人工知能が統括していましたので……、』
「人工知能が? 統括?』
『ええ、ライト研究員。何か問題でも?』
「それは、──」
ちいさく、うめく。
これは、本当に、ミラー人工知能か?
わからない。
が、……ともかく、話し続けるしかなかった。