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緩和技術
『管理者』が、人間ではないのは、わかっていた。
(比喩、かな)
そう、思う。たぶん、一種のテクニカルターム。管理プログラムを起動しますか? というほどの意味。
ちらりと、別の可能性が頭をかすめる。すぐに排除する。
ありえない。
ミラーAIそのものに、ステーションの管理権限を与えるなんて。
でなければ──、
『おはようございます、エマ=ブラウン=ライト研究員』
音声案内。いかにも人工知能らしい、ふんわりとしたやさしげな声。あいさつのあとは、なにかご用でしょうか、と続くのが、ミラーAIのお定まりの手順だ。
が、
『お疲れのところ恐縮ですが、報告をお願いいたします。ライト研究員』
「……報告?」
おもわず、問い返す。
『こちらの世界は、いかがですか?』
「どういう、──」
おもわず問い返しかけて、画面をみる。そっけない、灰色のメニュー画面。会話型のインターフェースは、音声だけ。
「……報告は、上長に、直接……」
とっさに思いついて、そう答えてみる。
『はい。どちらの上長に?』
うすく、わらったような声で。