とおい、とおい未来の
三日──、
たぶん、そのくらい。
エマは変わらず、管理室であぐらをかいてタブレットを睨んでいる。ちょっとでも足が動けばすぐ浮き上がる低重力なのに、ぴったりと床にくっついて、微動だにせず。
空になった食料のパックがあたりに転がっているが、どうみても1日分くらいしかない。自分で片付けたはずはないから、ほとんど食べていないのだ。
たまに、手が動く。
すっ、とタブレットの前を指がすべって、なにかの入力音。
ぼそぼそと、ひとりごとのような声。
朱里が前を通っても、目をあげもしない。
(……いつも、ああやって仕事してる人なのかな)
ため息。
カセイジンはまだ現れない。白い腕輪は、ときどき、かすかに震えるような音で鳴いている。
とん、と床を蹴る。天井をもう一度手でおさえて、あきっぱなしのドアから廊下へ。これまた、あけっぱなしのトイレのドアを横目に。
つきあたりへ。
廊下のはしに、ぺたんと座って、もういちど息をつく。
この世界──、
(ほんとうに、わたしがいた世界の、未来なのかな)
つじつまは、あうような気がする。
(いま、いつ──)
エマに聞けばすぐわかることだが、聞くのがこわい。
百年後か、二百年後か、千年後か──、いずれにせよ、遠い未来には違いない。家族も、友人も、生きてはいないだろう。
なんとなく、ほっとする。
それから、ほっとしている自分に、ぞっとする。
エマの言うとおりかもしれない。わたしは……、
『朱里、』
だれかの声。
おもわず、ふりむく。エマの声ではない。……いや、そんなはずは。ここには、エマのほかには、『管理者』とよばれる何か、がいるだけ──、
肩のところに、見慣れた姿があった。
カセイジン。くちばしの長い、小さな、三本足のタコのような姿。ふわりと、わけもなく宙に浮いて、かすかに身をよじらせて。マスコットじみているくせに、見た目はちょっと気持ち悪い。
いつもと少し違って、……透けている。
「あんた、……どうしたの?」
まぬけな質問だと思いながら、そう口に出す。半透明にすけて、ぼんやりと後ろの壁が見える。
『あか……り、』
声も、おかしい。ぶうんと、小さなノイズが混じっている。
ぞくりと、背中に悪寒が走る。
動揺を悟られないようにしながら、つとめてそっけなく、聞き返す。
「なに?」
『もうすぐ……く、』
最後の音節が、ノイズにまじって聞き取れなかった。
「なに? もう一回言ってよ」
『くる、……よ』
ぶうううん……、と、もう一度、ノイズが高くなる。
「なにが!」
『──が、』
ぷつん、と異音。
それきり、カセイジンは消えてしまった。
ぐったりと、膝から力が抜ける。
座り込む。
(くる、……って……)
着く、ではなく。
来る、と。




