わたしは、帰るのが
朱里は、長い長い話を、もう一度くりかえした。
それから、食事をして、少し眠って、湿ったシートでふたりとも体を拭いて、着替えをして、また話した。
広い管理室で、時々、ふわりと浮いて。
*
「……それじゃ、」
エマは、ふと思いついて、口をはさんだ。
「今、わたしたちがいる世界は……、あなたが生まれた世界ってこと?」
「え、」
朱里は目を丸くして、かすかに瞼をふるわせた。
「ちがうよ、だって……もう1つ先、次の世界がそうだって聞いたし」
「それを言ったのは、『カセイジン』? でも、いま連絡がとれないんでしょう。その装置、」
ぴっと、長い指を朱里の白い腕輪にむけて、平坦な声で。
「まるごと信用していいの?……とっくに機能停止しているんじゃ?」
「……壊れてるってこと?」
「あるいは、目的地についたから、自然に電源が切れた。」
「だって……、」
朱里は、きょときょとと目線をさまよわせている。紅い唇をちいさくとがらせて、
「わたし、……こんなの、知らない」
「こんなの?」
「宇宙ステーション! こんなの、地球になかった」
一瞬だけ目をつむってから、エマはいった。
「……それ、いつの話?」
「え、」
「あなたが地球を出たのは、西暦何年って言ってたっけ? いまはいつ?……もしかして、ここは、……あなたが生まれた時代より、ずっと未来なんじゃない?」
数秒。
朱里は、口をあけたまま、黙りこんでしまった。
「……うれしく、ないの?」
そう、いいかけて、首をふる。
ふつうは、嬉しくないだろう。……家族も、仲間も、とうにいないのだ。
「そりゃ、そうか。……ごめん」
「ううん、……」
朱里は、ちいさく首をふって、目を伏せた。
それっきり、すこしの沈黙。
*
「……わたしは、」
地球に帰りたくなかったのかも、と口のなかだけで小さくつぶやいて、朱里は、また思い直した。
そうじゃない。
わたしは、帰るのが、こわいのだ。 たぶん。




