侵略行為
「……ええと、『管理者が眠っているため、機能が制限されています。』それから、下のほうに──、」
「管理者? ……いや、それより」
もう一度、朱里の目線を追って、画面のまんなかに表示されている短文と、下のほうに、ごちゃっとフリーハンドで書いたらしいメモ領域の文字をみる。
中国語のような文字のあいだに、見たことのない曲線的な文字がたくさん混じっているようだ。いずれにせよ、エマには読めない。
「これ、……本当に日本語なの? あなたの認識では、」
「だから、そう言ってるでしょ!」
「……日本人? ネイティブ?」
「そう!」
「そう、……」
ふと、なにかがぐるりと転回した。
かすかな、めまい。
後頭部から、まぶしい光が直接眼窩にさしこんでくるような。
エミーに出会ったときのことを、思いだす。
そのずっと前、父のコンピュータでバイナリコードを初めて目にしたとき、
方程式に触れたとき、
それらすべてが繋がっていることを知ったとき、
それから、宇宙に、初めて来たときのことを。
「……それじゃ、……あなたは、ほんとうに別の世界の人間なの?」
「だから、そう……、」
東洋人の少女は、口をとがらせてこっちを睨むように見つめている。
そうか、と思う。
同時に、かちかちと目の裏で警告音がひびく。
もうひとつの可能性も捨ててはいけない。
──これは、侵略かもしれないのだ。
「それじゃ、もう一度、……教えて」
エマは、……つとめて、友好的に笑ってみせながら、いった。
「あなたの世界のことを。それから、操作を、少し手伝ってくれる?」




