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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
192/206

侵略行為

挿絵(By みてみん)

「……ええと、『管理者が眠っているため、機能が制限されています。』それから、下のほうに──、」

「管理者? ……いや、それより」

 もう一度、朱里の目線を追って、画面のまんなかに表示されている短文と、下のほうに、ごちゃっとフリーハンドで書いたらしいメモ領域の文字をみる。

 中国語のような文字のあいだに、見たことのない曲線的な文字がたくさん混じっているようだ。いずれにせよ、エマには読めない。

「これ、……本当に日本語なの? あなたの認識では、」

「だから、そう言ってるでしょ!」

「……日本人? ネイティブ?」

「そう!」

「そう、……」

 ふと、なにかがぐるりと転回した。


 かすかな、めまい。

 後頭部から、まぶしい光が直接眼窩(がんか)にさしこんでくるような。


 エミーに出会ったときのことを、思いだす。

 そのずっと前、父のコンピュータでバイナリコードを初めて目にしたとき、

 方程式に触れたとき、

 それらすべてが繋がっていることを知ったとき、


 それから、宇宙に、初めて来たときのことを。


「……それじゃ、……あなたは、ほんとうに別の世界の人間なの?」

「だから、そう……、」

 東洋人の少女は、口をとがらせてこっちを睨むように見つめている。


 そうか、と思う。


 同時に、かちかちと目の裏で警告音がひびく。

 もうひとつの可能性も捨ててはいけない。


 ──これは、侵略かもしれないのだ。


「それじゃ、もう一度、……教えて」

 エマは、……つとめて、友好的に笑ってみせながら、いった。

「あなたの世界のことを。それから、操作を、少し手伝ってくれる?」

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