ぽっかりとあいた穴に、
「……起きたの?」
朱里が目をあけると、エマは床の、……いや、レール側の板に、四角い穴をぱかりと開けて、ハッチのとなりにあるコンソールを睨んでいた。
いつのまにか、体がほとんど浮いて、車両の前方に移動している。微小重力。列車が停止して、遠心力がなくなったのだ。
それにしても、……減速するあいだ、ずっと寝ていたなんて。
シートベルトも、していないのに。
体じゅうが、うっすら痛い。やっぱり、疲れているんだろうか。それとも、減速時にどこかにぶつかったのか。
「なに、してるの?」
「環境チェック。温度と気圧と酸素濃度と……、」
「空気、あるの?」
「……たぶんね。あらかじめ最低限のシステムを起動させておいたから。今のところ、エラーは出てない」
「じゃ、──」
「念のため、船外服を着ていってもいいけど。どうする?」
ほんのすこしだけ迷って、朱里は首を横に振った。
「……このままで、いい」
「オーケー。じゃ、私もそうする。めんどくさいし」
そう言い終わる前に、エマはハッチレバーを引いている。
きゅるるるる、と耳に響く音。レバーが勝手に回転する。それから、一瞬だけハッチが浮いて、蝶番が動く。
ぱたん。
気圧差もないらしく、風はない。ほとんど、無音。ぽっかりと。
じんわり、いやな匂いのする汗が漏れ出てくる。
「行こうか。」
手汗でじっとりと濡れた指先を、ぐいとエマが引く。荷物を背負ったエミーが、後ろからこちらを見ている。
「うん、」
ちいさく、うなずく。ぎゅっとエマの手を握り返して、
そのまま、ふわりと跳ぶ。