孤独、の、意味
「……どうして?」
ぼんやりと──、
「え?」
「どうして、あなたが選ばれたの?」
「そりゃ、実験中のフネからは、基地と連絡のとりようがないから──、ひとりで、炉の制御とデータ取り、できればリアルタイムで実験データを照合して、理論の修正をしながら航行を続けなければならなかったわけ。……つまり、最先端で炉の研究に関わっている18人のチームの中から……」
「エマが、いちばん優秀だったの?」
いわれて、エマはしばらく目を見開いて黙った。かすかに唇をまげて、
「いいえ。……でも、そうかも」
「どういう意味?」
「ストレス耐性がとても高かったの。とくに、孤独と不安に対する耐性がね。……とにかく、テストの結果はそうだったらしくて。ただ、チームワークの評価点は悪くてね。チームで研究するより、地上で式を解いているほうがむいてるんじゃないかって言われたりもした。……わたしも、そう思わなくもなかったけど……」
「……宇宙に、来たかったの?」
「いいえ。……どうだろ。そうかも」
エマは大きく歯をみせて笑った。それから、
「私って、かたちのないものが好きみたい」
「え?」
「プログラミング言語。数式と物理法則。科学者はみんなそうだけど。とにかく、……人間より、そういうものを相手にしているほうが落ち着くってこと。だから、孤独に強いの。もしかして、あなたもそのタイプじゃない?」
「どうして、……そう思うわけ?」
「べつに。なんとなく」
そう、言いながら、笑うわけでもなく。
青い目を、じっとこちらに向けて。
*
「……なんで泣いてるの?」
さァ、とぼんやり答えて、朱里は首をかしげた。自分でもわからないのだ。
「ただ、夢が……」
「夢?」
「うん、……」
いや、夢なのかどうか。
とにかく、思いだせないのだ。
「わたしが、……」
「え?」
「どうして、……を、殺そうと思ったのか。」
さいごの言葉は、かすかに喉をふるわせただけ。
たぶん、エマには聞こえていない。
*
首をぐいと後ろにむけて、外のけしきを見る。地球はいま、夕暮れ。
銀河鉄道。そんな言葉が浮かぶ。
ジョバンニとカンパネルラ。いや、わたしは……、
ザネリだ。