補正粒子
加速実験については、どこまで話したっけ。
わたしが元々いた、ガラパゴス上空の第1エレベータ地区。その、7番研究棟。通称、Bラボ。
そこで、18人のチームを組んで研究していたのが、新型の超光速反応炉。基礎データの収集と理論の整備は、わたしが宇宙にあがる頃にはとっくに終わっていて、あとは実験だけ。
いろんな方法が検討されたけど、結局のところ、実際にエンジンをつくって、起動してみるしかなかった。
そこに至るまでの基本的なテストは、すっかり終わっていたから……。
あ、超光速反応炉ていうのはね、……ええと、超光速粒子を、高速かつ大量に発生させる装置。
つまり、……なんて言ったらいいかな。
超光速粒子は、あらゆる粒子の運動にともない、……結合力の緩みと歪みを補正するために、真空中で常に生成されているの。
ただ、私たちには、粒子そのものを観測することは決してできない。……というか、まだ観測する方法が見つかっていないというほうが正しいかな。とにかく、理論上だけに存在する、まぼろしの粒子だったわけ。
けれども、近年の研究で、超光速粒子の発生時に、ごくわずかな反作用が発生することが判明して……超光速粒子の理論が整備される前は、粒子結合の撓みを補正するために多次元領域から発生する空間力として知られていたのだけど、とにかくそういう力があって、……結局、超光速粒子そのものを観測することはできなくとも、間接的にその証拠を得ることはできるのだとわかった。
……いくども実験を重ねて、力場の歪みを観測しながら粒子のスピンと振動を綿密に制御する方法論が見つかって、その応用で、連続的に超光速粒子を大量に発生させる、炉のシステムを完成させたの。
ただ、じっさいにそれを起動すれば、当然、炉全体に空間力……つまり、超光速粒子生成の反動がかかる。炉は全体で1つのシステムを構成していて、出力をおさえて起動したり、断続的に短時間ずつ動作させたりすることはできないから、一度動かしたがさいご、炉は加速を続けて、宇宙のかなたに吹っ飛んでいくことになる──、
ちょうど、その頃、……太陽系外探査の別プロジェクト、それに高速移動時の時間のブレについての理論化をめざした基礎データの必要性……色々と他に事情もあって、この、初の有人高速船による宇宙探査事業が計画されたの。
……で、
わたしが、そのパイロットに選ばれたってわけ。