くりかえされる加速の感覚
それから、しばらくして──、
*
しずかな、音。
モーターの駆動音。それから、くりかえされる加速の感覚。
もう、手すりをつかまなくても足はきちんと床につく。加速しきったトレインの内部には、およそ1Gの疑似重力がある。地球のまわりを、チューブに沿って高速で進むことにより、遠心力が発生しているのだ。
ふいに、エマがこちらをみて口を開く。
「……こっち周りしかないからさ、時間かかるよ」
「え?」
「遠心力の関係でさ。地球の自転方向にしか走らないことになってるの。……第1ステーションまでは、こう、ぐるっと遠回りに」
「……地球を一周しちゃうってこと?」
「正確には、一周の六分の五ね。……だから、すごく時間かかるよ」
「ふうん……」
朱里は、あらためてあたりを見回した。
「ほんとに、……電車、みたい」
向かい合わせに、つくりつけの長椅子がふたつ。そのあいだに広い空間。床はそっけないリノリウムで、両側の窓には星空が見える。
「トイレは、むこうの車両ね」
「うん、」
「寝台車もあるから。……ま、楽にしてて」
「はぁい」
ふっと息をつく。また、頭がぐらぐらする。重力の変化は、体によくない。
「……そういえば、」
むかいの席で、かるく腕組みをしてすわっているエマに、小さく声をかける。
「なに?」
「どうして、……第1ステーションに行くの?」
「どうしてって、……昇降機のあるホールが、空気漏れで。あそこを通らないと、上にも下にも行けないもの。他のステーションに行けば、そこから……、」
「そうじゃなくて。ほかにも、ステーションはあるんでしょ」
「ああ、……」
エマはかすかに眉をしかめて、左上に目線をさまよわせた。
「第1ステーションはね、いちばんメインの基地なの。そもそもガラパゴスの海上合同宇宙開発基地が、宇宙港のバックアップ機能を統括してて、……」
「そこで、何するの?」
「……基幹AIにログインする」
ちいさく、ひくい声で。
(……怒ってるのかな、)
そう、思うが、さすがに口には出せない。
「ネットワークで繋がってはいるけど、こっちからのアクセスは受け付けない。そういう設計になってるみたい。物理的に第1ステーションまで行かないと……、」
「……AIって、会話できるだけの知能があるんでしょう。連絡は、とれないの?」
「え、」