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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
183/206

なにかの信号のような

挿絵(By みてみん)

 列車が加速を始めた。発車前の自動シーケンスがようやく終了(しゅうりょう)したようだ。



 かつん、かつん、かつかつかつ、かつん、かつん、かつかつ、かつん、──、

 

 エマに手をかりて座席をはなれ、うしろの窓をみる。黒い蜘蛛のような、6本脚の機械が、赤いモノアイをこちらに向けて、足先で窓を叩いている。

 リズムよく、何度も。

「エマ……、」

 かわいた舌で、ようやく声をしぼり出す。エマの腕をつかむが、反応はない。じっと、蜘蛛を見つめている。

 エミーは、壁ぎわでつんと立っている。こちらも、助けにはなりそうにない。

(カセイジン……、)

 ぎゅっと、手首の白い腕輪に指をあてて握りしめる。もちろん、なんの反応もない。


 かつかつ、かつん、かつん、──


 奇妙なリズムで、音がくりかえされる。

「これ、──」

 ちいさく、かわいた声でエマがつぶやく。

「なにか、……信号、みたいな」

「モールス信号、とか……?」

「たぶん、ちがう、けど、──」

 わ、とちいさく喉から悲鳴があふれる。足が勝手に床から離れて、くるりと回転する。頭が下に。右手が床にふれて、とん、と音をたてる。

 列車がさらに加速したのだ。

 ぎぎ、とかすかな音がして、気がつくと窓のむこうには何もいなかった。

「振り落とされた、の?」

 なんとか、手すりにつかまって体勢をととのえながら、つぶやく。

「たぶんね」

 エマは転ぶこともなく、いつのまにか自分の座席に戻っていた。

「……加速にちょっとムラがあるみたい。さっきの、また来たら教えてね」

 それだけ言って、目を閉じてしまう。

(また来て、欲しくないんだけど)

 心のなかでそうつぶやいて、……朱里は、ともかくも座席に戻った。

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