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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
182/206

銀河鉄道の

挿絵(By みてみん)

 握れない。

 ステーションが遠くなっていく。体が戻っていかない。思ったより強く、手すりを押してしまったのか。ぼんやり考える。このまま、地球まで──、

「アカリ!」

 声。肉声。インカムからではない。

 目をあけると、……至近距離に、大きく口をあけたエマの顔。

「だいじょうぶ? ごめんね!」

 くぐもった声。エマのヘルメットと自分のヘルメットが、ぴったりくっついている。そこから、直接、声が伝わってくる。

「だい、じょうぶ」

 答えると、エマはちいさくわらった。

 腰に手の感触。エマは朱里を抱き()せるようにして、一緒に回転していた。ふたりの命綱は、空中で寄り()うようにらせんを描いて、ふわりと浮いている。

(から)まると危ないから、気をつけてね」

 いいながら、エマは右手でスラスターの操作盤に触れた。ぐい、と大きな力が腰にかかる。すぐに回転が止まって、ふわりと命綱をほぐすように迂回(うかい)しながら、ふたりはゲートのすぐそばに着地した。

『……インカムが、調子、わるいみたいね』

 かすかにノイズがまじった声。うん、と答えると、エマはかすかに眉をあげてこっちを見た。

『いまのは聞こえたの?』

「……うん、きこえた」

『そう。……ま、いいや』

 壁の突起に、かるく足をひっかけて、エマはまっすぐ立っていた。朱里は膝をまげて両手で手すりにしがみつきながら、エマの目線の先を追ってみる。

『エミーと荷物を移動させないとね。……あれに、乗るんだよ』


 遠く離れた軌道エレベータをつなぐ長大なチューブの内側に()かれたレールの上、ゲートから半身をだしてしずかに()まっている、直方体の構造物。


 トレイン。衛星軌道特急に。



 かたかたかたん、と音がした。


 窓のほうからだ。

 車両に荷物をぜんぶ運びこんで、天井のエアロックを閉じ、ようやく一息ついたところ。空気で満たされた車両の、むかいあわせの長椅子(ながいす)にすわって。かすかな疑似(ぎじ)重力に身をまかせて。

 揺れるような小さな音が、耳につく。

 なにかを叩くような──、

「エマ……、」

 むかいで座っているエマの目をみる。すぐに目があう。やけに大きく見開かれた青い目が、()き刺すように、こちらを、

 ……いや、もっと後ろを?

「アカリ!」

 悲鳴のような叫び。それからようやく、朱里は後ろをふりむいた。


 ──おもわず、ぎゃっと声が出て、膝から力が抜ける。


 ふたたび、……蜘蛛が、窓を叩いていた。

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