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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
181/206

どこかに、地球とデイジーベルが

挿絵(By みてみん)

(あそこに落ちたら、宇宙を永遠に漂うことになるのかな)

 それとも、太陽に落ちて()え尽きてしまうのか──、

 そうならないための、命綱とスラスターだ。

「よし、」

 いこう。

 そうきめて、腕に力をこめる。

 質量がなくなったわけではないので、腕にはそれなりの抵抗(ていこう)がかかる。それでも、地上のように重くはない。てんてんと連続して設置されている突起をはしごのようにして、エマに指示された方向へとすすむ。

 命綱がからまないよう、右手で軽くさばいて、うつぶせの姿勢で。すこし進んで、かるく首をふる。遠い恒星(こうせい)が視界に入る。

 あのどこかに、デイジーベルがあるのかもしれない。そう、思う。


 夢想をふりきるように、ふたたび、手に力をこめる。


 ゲートまでは、すぐにたどりついた。円盤(えんばん)状のステーションから、垂直にとびだしている接続チューブの、すぐ地球側。半円状の大きな扉。ぴったりと閉じて、つめたい灰色の顔をこちらに向けている。

「ゲートのとこまできたよ」

 ささやくと、すぐに返事がかえってくる。

『オーケー。じゃあ、開閉指示をおくってみるから、しばらく待ってて。』

 ゲートからすこし離れて、5分ほど待つ。

『……開いた?』

「いいえ。ぜんぜん」

『そう、じゃ、別のコマンドにしてみる』

 それから、また30秒ほどして、

『反応は?』

「ない!」

『そう? おかしいなあ。もすこし待ってて』


 ──ずん、と手元に振動。


「動いたァ!」

 指が離れそうになり、あわてて持ち手を握る。両手で体をささえながら、扉を見下ろすと、ゆっくりと開いていく。無音(むおん)で、かすかな振動とともに。

『離れて!』

 エマの声。反射的に、手すりから手を離してしまう。


 あっ、と叫ぶ。頭のなかだけで。


 手を離した反動で、体がステーションから離れていく。あぶない、と思う間もなく、くるくるくる、と腰を中心にモーメントがついて、勝手に回転がはじまる。三半規管がぐしゃぐしゃにかき回されて、吐きけがこみあげてくる。

 ちらりと、ゲートが目に入る。

 大きく開いたゲートの、夜みたいに暗い内部から、なにか、大きなものが出てくるのが。

 一瞬だけ。


 スラスターの操作盤に手を伸ばしかけて、やめる。命綱を握る。手袋の外側を、するりとケーブルが抜けていく。しなやかに。

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