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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
180/206

黒い宇宙空間に、するどく輝くひかり

挿絵(By みてみん)

 エアロックを開ける。右手をそっと出す。船外服の指先のむこうに、地球がみえる。

(……なんだか、変な感じ)

 上下が逆転したみたいだ。いまさら、そんなことを思う。

命綱(いのちづな)、もっぺん確認して!』

 インカムごしにエマにうながされて、腰のアタッチメントに装着したケーブルを触る。小さなカラビナがふたつ、揺れて、金具に接触する。……音はしない。ただ、かちゃんとつめたい振動が、船外服をとおして肌に伝わってくる。

 メインステーションの片端(かたはし)、遠く離れた軌道エレベータどうしをつなぐ長大なチューブの、地球側の外壁(がいへき)。そこに、立っている。

 トレイン。

 地球に6カ所ある軌道エレベータの間を、超高速(ちょうこうそく)で移動する乗り物。それを起動するために、ふたりは宇宙空間に出てきたのである。

「すっご……」

 遠い。

 頭上の地球が。

 太陽光パネルの羽がはえた、長大なチューブでつながれた、はるか向こうのステーションが。

 足下から容赦(ようしゃ)なく注ぐ、太陽の光が。

「遠い……、」

 つぶやく。

 ぼうっとしていると、肩をつつかれる。同じく船外服を着込(きこ)んだエマが、となりにいる。

『いくよ、』

「うん」

 出口のはしをつかんで、体をぐっと外に出す。センサーが動いて、出入り口が閉まる。

『スラスターあるけど、非常用だから。外壁に、こう、』

 てんてんと、レールのように点在している持ち手を、ぐっと握って。

『必ずこれを持って、手を離さないように。……もし離れちゃったら、まず命綱。スラスターは難しいからね。わかった?』

 うん、と頷いて、もう一度、命綱と、腰の右側につけたスラスターの操作盤を確認する。

 持ち手を握る。目標を確認する。

『わたしは、……あっちのコンソールを触るから。あなたは、そこのゲートで』

「ゲート?」

『ゲートを開けるから。見てて。あぶないから、近づきすぎないように』

「はぁい」

 小さく返事をすると、……エマは、すぐに、とん、と壁をけって、とんでいってしまう。

(手を離さないように、って自分で言ってたのに)

 ぼんやりと、それを見上げて。

 まだ、朱里とエマの体には、遠心力が効いている。壁から離れても、しばらくすればまた戻ってくる。

 ステーションの上から、脚を踏み(はず)したりしなければ──、

(……こっわ)

 地球と反対側、遠くに太陽がみえる。その背後には、どっぷりと黒い宇宙空間。

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