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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
177/206

6本のまがった脚と赤いモノアイ

挿絵(By みてみん)

 ドアにたどりつく寸前、耳のうしろに、また音がひびく。反射的にふりむくと、蜘蛛の()の下から、細長いくちばしのような棒が()びて。その先端の、黒い、小さな金具が、

 こつん、こつんとリズムをつけて、窓を叩いていた。


 悲鳴をこぼしそうになって、ぐっとこらえる。

 ホールの反対側にいるエミーが目に入る。糸が切れたみたいに、ぐちゃりとくずれて、座りこんでいる──、


「アカリ!」

 くるくるくる、とハンドルが勝手にまわる。重い音がして、ドアがひらく。半開きの隙間から手がのびて、引っ張りこまれる。

「エミー! 荷物持って出て!」

 頭上を声がとぶ。数秒して、エミーがするりとドアをぬけてくる。その補助をしてから、エマは朱里に向き直った。

「だいじょうぶ?……ブザーが」

「あれ何?」

「たぶん、非常ブザー。なにか異常が……、」

「そうじゃなくて!」

 きゅう、とドアがしまる。

 ふたりが見ている前で、きゅるるるる、とか細い音をたててハンドルが勝手にまわり、扉全体がかすかに震える。密閉されているのだ。

「ねえ、」

「まって、」

 エマのひとさし指が、丸ハンドルの軸のあたりに小さく触れる。かすかな起動音がして、ハンドルのすぐ上に、(てのひら)ほどのディスプレイが出現する。

 細かい文字が、ぱらぱらぱら、と()う。エマはディスプレイをじっと睨みつけて、ちいさく舌打ち。

「……空気漏れ」

「え?」

「ホールの一部で、気密がゆるんだみたい。……たぶん、昇降機が着いたときに、どこか衝撃(しょうげき)で。メンテナンス履歴(りれき)も、なんか変な感じだし──、」

「それって、……あの、蜘蛛みたいなやつがなにか……」

「クモ? そんなのいた? ステーションに?」

「……さっき、窓のむこうに。」

 ディスプレイに釘付(くぎづ)けだったエマの目が、とつぜんこっちをむいた。

「宇宙空間に?」

「蜘蛛っていうか、あの、足が6本くらいあるロボットみたいなやつ。……このくらいの。黒くて、赤い目があって──、」

「そんなの……見たことないよ」

 エマはじっと朱里の目をみて、

「なに、……見たの?」

 朱里は、眉をしかめてうつむいたまま、さァ、と言うしかなかった。

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