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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
176/206

蜘蛛のシルエット

挿絵(By みてみん)

「んー、こっちじゃなかったかな」

 エマは、とん、と水をかくように指先で壁をついて、ゆっくり泳ぎだした。

「まってよ、」

 吐き気をこらえながら、まねして動く。バランスをくずして、背中でとんと床をたたいてしまう。ちょっと()き込んで、唇をかむ。

「そこにいて!」

 その声だけ残して、エマはいってしまった。

 かっ、かっ、と床をかかとで叩いて、天井に手をついて、……10歩むこうのドアに、手をかける。あわてて、朱里も後を追おうと、床から足を離すが、

「まってよ……、」

 追いつけない。

 バランスを(くず)して、ぐるぐる回る。無重力でまっすぐ進むには、コツがいるようだ。回転しながら、天井にぶつかってしまう。 

 気持ちわるい。

(エマ!)

 声がでない。

 もうエマの姿はみえない。昇降機を出てまっすぐ前の、小さなドアのむこう。ゆっくり閉じて、くるくるくる、と大きなハンドルが勝手にまわる。それを見ているうちに、また体が一回(こか)して、床に(しり)がぶつかる。

 バランス感覚が、おかしくなっているようだ。

 深呼吸する。

 もう一度顔をあげると、……ちいさな音がした。


 うしろ。いや、横から。


 こつんこつんと、規則的な音。一定のテンポを保って、なにかのリズムを刻んでいるようだ。こつんこつん、……こつん、……こつん、……こつんこつんこつん、……こつん。

 音楽、だろうか。

 

 ふりむく。

 窓。するどくさしこんでいた星の光が、なにかに(さえぎ)られて。


 黒い、大きな蜘蛛の、かげ。



 びぃっと、大きな高い音が鳴った。



「う、わ」

 悲鳴が、うまく出てこない。

 大きなブザーに、心臓がするどく反応する。反射的に、足が動く。空を蹴りかけて、無意識につまさきを動かして修正する。昇降機の扉(わく)に、足を押しつけて。

 飛ぶ。

 出口まで進む、ほんの数秒のあいだに、それと目があった。


 蜘蛛、のような形をした、──たぶん、ロボット、か何か。

 人間の頭くらいの大きさの、黒い機械。六本の脚を窓枠(まどわく)にはりつけて、大きな赤い単眼を、こちらに向けている。


 ──こつん。

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