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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
175/206

車酔いはしたことないのに

挿絵(By みてみん)

 メインステーションに近づくにつれて、体が軽くなっていく。

 いま、どのくらいの速度で降下してるんだろう。

 いや、降下でなくて、上昇(じょうしょう)

(……ええと、)

 眉をひそめる。ともかく、……気持ちがわるい。吐きそうだ。

 胃が、逆転しているみたい。頬が()れぼったい。かすかに、頭痛も。

宇宙酔(うちゅうよ)い、するタイプ?」

 こともなげに、エマがいう。

「しない人って、いるの?」

「わたし、()ったことない」

 いいながら、エマはふわりと右足のつまさきで床をける。

 ふわりと浮くように跳んで、天井にタッチ。それから、十秒かけてゆっくりと、着地。

「……車酔いは、したことなかったんだけど」

「この昇降機、降りるときはキツいらしいんだよねえ。……ほら、いま減速に入ってるから、上方向の加速度と遠心力の変化がいい感じにミックスされて、こう、ぐだっと」

「……よくわかんない。理系ジョーク?」

「ジョークじゃなくてさ、」

 もう一度、床を蹴って、……こんどは、空中であぐらをかいて、そのまますとんと降りる。

「ほんとうに、……ここで気分悪くなる人、多いんだよ。無重力は経験あるんでしょ?」

「まあ、……経験っていうか」

「なら、むこうに着いたらすぐよくなるよ。たぶんね」

「そうかなぁ……」



 実際には、そうはならなかった。



「……ぅー、」

 よろよろと、無重力の箱のなかを浮いたまま、くるりと丸まって。

 小さく、床と壁をつついて、(へそ)のあたりを中心に回転する。そうしていると、なんだか少し、楽。

 遠心力が、重力のかわりになるような気がして。

「それ、……やめたほうがいいよ」

 そう言われても、じっとしていると気持ちが悪いのだ。

「……はきそう」

「はいはい、トイレに案内するから。……もうちょっと、我慢(がまん)して。」

 いわれたやさきに、ぴいいっと、ブザーの音。

「ほら、……着いたよ」

 部屋が、かすかに揺れる。かちゃんと、陶器があたるようなかわいた音がして、浮いていたエマが、床に手をつく。

「すぐ慣れるよ、」

 と、気のない感じでいって、エマはふわりとまた(かけ)んだ。ドアの白いパネルにちょんと触れてると、横開きの扉が、しゅんと湿(しめ)った音をたてて開く。

「ここ、」

 ドアから顔をだしかけて、エマがちいさくつぶやく。

「メインステーション、……」

「え?」

「いいえ。ちょっと、……違和感が」

「いわかん?」

 いわれて、朱里も外をのぞく。

 無重力のエレベーターホール。いや、ホールというには少し狭い。白い円形の部屋。天井と床はうっすら光って、そっけない壁を照らしだす。

 片側に、大きな窓。きらめく星が、するどく刺し込んで。

 もうとっくに上下の区別はない。どっちが床か、天井か。

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