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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
172/206

とっぷりと静かにおちていく声

挿絵(By みてみん)

「……結局、何十年かけても人類はフレーム問題を解決できなくて」

 エマの声は、とっぷりと静かで、なんだか沈んでいるようにきこえた。

「かわりに、ミラープログラムを発明したの。ずっと前、もう200年ちかく昔の話。システムは改良されたけど、理論は今でもほとんど変わってない。つまり……、」

 エマの目は、どこか遠くを見ているようだった。

 朱里でも、壁際にたっているエミーでも、壁のむこうの宇宙でもなく、


 もっと、遠くを。


「……人間の、……それも、あらかじめ設定された特定の人間のオーダーに応える、あるいはその相手の模倣(もほう)をする。機能をそれだけに絞ることで、人間のもつ感情と思考力──の、ようなものを、表面上だけ再現する理論。それだけ。」

「それだけ……、」

「そのあと200年経っても、私たちはそれ以上()み出せなかった。……ほんとうの、自律した人工知能を作ることは、どうしてもできなかったの」

「あなた、……プログラマーなの?」

「ちがうよ。ただの趣味(しゅみ)

 エマの目線は、いつのまにか、

 エミーのちいさな額に、むけられていた。

「……わたしは、素粒子物理学者。人工知能は専門じゃないし、仕事で使ったこともない。昔から、趣味でいじってるだけ。」

「趣味で……人工知能を、」

 朱里はちょっと眉をしかめて、……それから、ふと気になったことを、口に出した。

「……あなた、宇宙飛行士じゃなかったの?」

「え? まさか。」

 エマは、両唇をかすかにまげて、笑った、……ように見えた。

「わたしは、もともと地上の大学にいたし……、ここに来たのは、たまたま研究職のポストがあったから。宇宙に来たいわけじゃなかった」

「そう、なんだ」

「べつに、嫌いじゃないけどね……、」

「そう、」

 朱里は、目を伏せて、ちいさな声で、

「わたしは、……嫌いだな」

 と、言った。

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