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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
171/206

知らない歴史

挿絵(By みてみん)

「理論上は、……真の人工知能をつくることは可能なはずなの。だって、……人間の脳の容量はそこまで大きくないんだもの。少なくとも、自然ができたことを、電子で再現できないはずはない──、」

「……なにがちがうの?」

「え?」

「ミラー人工知能と、真の人工知能の違いって、何?」

「……うーん、それって」

 こころなしか、エマのまぶたが、さっきより高くあがっているようにみえる。

 唇も、なめらかに動いて。

「ようは、人間にできて、人工知能にできないことは何か、ってことなんだけど」

「そんなの、あるの?」

「たとえば、……(うそ)をつかないこと」

「え?」

 なにかの、レトリックだろうか。

「……逆じゃ、ないの?」

「いいえ。……ねえ、もう少しあったかくできる?」

『かしこまりました』

 突然(とつぜん)のオーダーに(こた)えたのは、エミーではなく、きれいな機械音。

 部屋の中心、だれもいない空間から聞こえてくるような。

『室温を少し上げました。適温だと思います。お()()すといいのですが』

「結構。……少しリラックスしたいの。会話をモニターするのをやめて、スリープモードに入りなさい」

『かしこまりました。……また必要な際は、管理者経由で再起動してください。よい旅を』

「ありがとう」

 にっこりと笑って、エマはまた朱里の目をみた。

「……なに?」

「あったかくなったと思う?」

「え……、」

「この昇降機、温度調節機能はないの。」

「えぇ!?」

「あっても、低電力モードじゃ動かないと思うけど。……それから、スリープモードなんて機能もない。今も普通にモニターしてるし、話しかければ応えるはず」

「……どういうこと?」

「ミラー人工知能はね、人間を失望させることはできないの」

 朱里はすっかり混乱して、眉をひそめた。

「そんなの、……役に立つの?」

「知ってるくせに。……そう呼ばないだけで、私たちが使ってる家電も、コンピュータも、インターフェイスはだいたいミラー人工知能が()み込まれてるんだよ」

「だって……、」

 おもわず反論しかけてから、気づく。


 これは、……別の世界の話だ。

 でも、……


「ただ、……ふつうは、知能のないコンピュータプログラムと組み合わせて使うから、注意していないと気づかないかもね。ミラー人工知能は論理的思考ができないから、複雑な仕事は任せられないの」

「……どこかで聞いたような、」

 とおい記憶(きおく)を、さぐってみる。

 この旅のあいだではなく、故郷の地球での記憶。


『いまの人工知能は、まだ、……』


 誰かに、同じような話を、聞いたような──、

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