知らない専門用語
「……この部屋は、ミラー人工知能が制御してるの」
三歩はなれて、向かいあわせに座る。床の一部が変形した、つめたく硬い椅子。そのくせ、ぐっと押し込むとへこむ。
エマの椅子は、ふんわりとやわらかい素材にみえる。何がちがうんだろう。
「ミラー人工知能って?」
「うーん。……まず、人工知能っていうのは、」
「それは、何となく知ってるけど……」
口を挟んでから、ちょっと後悔する。
……わたしの知っている言葉と、ほんとうに同じだろうか?
翻訳機は、正常に動いている。だけど、
「じゃあ……、」
エマはちょっとあたりを見回すようにしてから、
「わたしたちがミラー人工知能と呼んでいるものは、あなたが知っている人工知能そのもの、だと思ってくれていいよ」
「……どういう意味?」
「つまり、科学者がわざわざミラー人工知能と呼ぶのはね、……理論上にしか存在しない、真の人工知能と区別するためなの」
「真の人工知能って?」
「ほんとうに、……思考することができる、機械のこと」
「それは、……」
聞きかじりの知識が、いくつか頭のなかを巡っていく。
「それは、……たとえば、人間と自由に会話したり、推論したり……、」
「会話だけなら、ミラー人工知能にだってできる。エミーもそうだし」
「エミーは、……真の人工知能じゃないの?」
「ちがうよ、」
と、エマはこともなげにいった。
「そう、……なんだ」
なんと問い返したものか。
では、カセイジンは?
……デイジーは?