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異世界八景  作者: 楠羽毛
砂漠の世界
17/206

キャラバン

 砂塵──


 ずっと先まで何もないように見えるが、風が強いせいで意外と視界はせまい。砂ぼこりと陽炎で、よくよく目をこらしても地平線まではとても見えない。

 朱里は、天蓋付きの車のなかにいる。車をひくのは、ルーダーといわれる節足動物。巨大なワラジムシのような生き物である。

 車は、3台。うち1台は荷物がぎっしり積まれて、朱里の乗る台車には、御者のほかに、風の民がふたり。うち一人は、ごろりと転がって動きもしない。そもそも天井が低いので、体の大きなかれらは、座るか寝ているしかないのだが。

「ハ・ル・シティだ!」

 歓喜の声がきこえた。

 朱里は、中腰のまま跳ねて、荷台のそとに顔をだした。まだ、かなり遠いようだが、建物のようなものがみえる。大きな、ビル街のようなシルエット、地上には、平たい台のようなものがたくさん並んで。

 見上げる。シルエットの上半分が、ゆらいで歪む。蜃気楼か。

 眼鏡をあげて、目をこらす。レンズにこびりついた砂粒にいらつきながら。

 じいっと、にらみつけるように見て、ようやく。

 まちがいない。あれは、街だ。そう、思う。

(ようやく、)

 と、ふっと息をつく。体はスーツのおかげで快適だが、顔は汗だくだ。

「待て、」

 と、御者がいう。

「あれは……、」

 小さな丘をこえて、なにかが近づいてくる。

 砂塵にまぎれて、よく見えないが、ルーダーのようだ。

 キャラバンが使っているものより、ひとまわり小型。荷台をひくのではなく、鞍のようなものがついて、上に、ふたりずつ風の民が乗っている。

 槍のようなものを、持って。

「兵だ!」

 御者があわてて手綱をひく。ルーダーが急停止し、荷台が跳ねる。朱里はあわてて伏せながら、近づいてくるルーダーをかぞえた。10、いやその倍。人数ならさらに倍か。

 どんどん近くなる。10歩ほどの距離で、むこうも急停止。縦隊で進んでいた兵たちはすぐに横ならびになり、キャラバンを取り囲むように広がっていく。

「ズ・ルの兵か!」

「いや……、あれは、本人だ」

 朱里のわきにいた男が、御者とするどく会話をかわす。

 誰のことか、と朱里が外に目をむけようとすると、すぐに幕が降ろされてしまった。

「中にいろ、」と、うなるような声で奥に追いやられる。

 後は、声ばかり。

「……長はだれだ!」

 高らかな、威厳のこもった声。

「わたしがキャラバンの長だ。ズ・ル殿」

 応えたのは、グーラニではなかった。

 たしか、もう一台のルーダーを御していた、背の高い男だ。

「わざわざシティの外までおいでとは、どういう御用件かな」

「うむ。……少しばかり、よくない噂を聞いたものでな」

「噂とは?」

「私と契約し、さだめられた荷だけを扱うことになっているキャラバンが、ひそかに別の荷を運んでいるという噂だ」

「ばかな。そんなことはありえませんね」

「ほう、噂によれば、」

 ここで一拍、意味ありげにおいて、

「昨日、ハ・ル・シティからキャラバンにより水が持ち出されたそうだが。」

「存じません。乗員の私物でございましょう。」

「キャラバンの乗員は、重さ12ルー以上のものを個人的に持ち込むことは禁じられているはずだが?」

「……水の量まで、噂でお聞きになったので?」

「耳がよいものでな。だが、まあ、知らぬというなら知らぬのだろう。証拠もないことだ。わざわざ砂に誓えとは言わぬ。だが、もうひとつの噂は別だ」

「と、申されますと?」

「ハ・ル・シティの外で、水よりももっと大きな、動くものを密かに積み込んだという噂だ」


 ぞっ、と荷台のなかの空気が揺れた。

 ささやく声。早口にとりかわされる。

(なぜ、知っているのだ)

(通信が漏れたんだ……。)

(いつ、どこで!?)

(わからん。ことによると、本部にスパイが、)

 そこまでいったところで、はっと朱里の目線に気がついたように、黙りこむ。


「……それこそ、ただの噂でしょう」

「ならば、よいが。ところで契約によれば、荷主には荷台を検める権利があるはずだな?」

 しばらく、たがいに無言。

「……いや、やはりただの噂だろう」と、ズ・ルの声。

「そう、言っていただけると……」

「密かに積み込んだというのはただの噂で、実際には、やむなく保護したのだろう?」


 ふたたび、乗員たちがざわめく。

(……やはり、知っている。)

(どこまで!?)


「それは……、」

「ならば、ハ・ル・シティに着きしだい、予定外の荷は規定どおり荷主に引き渡し、指示を受けることになるはずだな。当然そのつもりだろうと思って、手間をはぶくために出向いたわけだが」

 ながい、沈黙。

 それから、

 ささやくような声が少しだけかわされ、幕があいた。


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