なめらかな家具
軌道エレベータは、海上から衛星軌道をはるかに超えて屹立する、巨大な塔だ。
引力と遠心力で、ぴいんと上下に張られた、6本の弦だ。
重心には、巨大なメインステーションがあり、先端には、バラストをかねた発着ステーションがある。
地上からメインステーションへ、メインステーションから発着ステーションへ移動するには、昇降機を使って、長い長い道のりを辿らなければならない。
*
「……メインステーションまでは、とりあえず行けるから」
昇降機は、およそ4畳半くらいの小部屋だった。
見たところは、なにもない。窓も、椅子も、コントロールパネルさえ。
灯りは頭上ではなく、壁に。床と天井の、ちょうど真ん中の高さに、小さな照明がぐるりとまっすぐな点線を描いている。
エマが、その中心に立って、
「……どうぞ、」
と、言った。
「なんにも、……ない。」
朱里は、おもわずちいさな声でつぶやいて、見回す。左右に開いていたドアはぴったり閉まって、もう影もかたちもない。エマのうしろにエミーが、つんとすまして立っている。
背負っていた荷物を、床におろして、とりあえず座ろうかと思う。膝をまげると、「ア、」とエマがつぶやくのが聞こえる。
エマの長い人指し指が、ついと壁のライトをなでるように動く。
「……椅子を、」
ちいさな声で。
かしゃんと、なにかが擦れる音がして、床が盛り上がって固まった。
まるい、小さなスツールの形に。




