メトロノームみたいな足音
階段を、一段ずつのぼっていく。
かたん、かたん、とリズムよく。
エマの足音は、メトロノームみたいにきれいに響く。そのとなりに、エミーの機械の脚の音。こちらは、少しくぐもって、低い。
朱里の足は、べたりと重い。
ふと手持ちぶさたに、高い天井を見上げる。円形のシーリング。くもった日のおぼろ月みたいに、ぼんやりと青白い。
あの方向に、地球があるのだという。
足下に宇宙。
頭上に地球。
そうして、いま足を重くしているのは、地球の引力ではなく、このステーションが地球のまわりを回転することによる、遠心力──、
考えながら、目を伏せて歩く。
食事を終えてから、30分ばかりも歩いたか。もう、ずいぶん遠くまできた気がする。
いや。
ずいぶん、近くまで戻ってきたのだ。
地球まで──、
……いや、本当に?
「エマ!」
足をとめて、叫ぶ。
かたかた、と脛が震えている。ほんの少し息を止めて、気をおちつかせる。
立ち止まってふりむいたエマに、大きな声で。
「あなたの地球と、……わたしの地球は、……違う場所、じゃないかな」
エマは、青い目でじいっとこちらを見ていた。
「話は、……昇降機に乗ってからにしましょう」