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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
164/206

かわいた音が渦を巻くように

「ちょうどいいから、ここでお昼ね。……フネにはまだ少し予備があるけど、何がどうなってるかわからないし、節約しないと」

「はあ……、」

 あまり、食欲はない。が、食べなければ生きられない。

「ちょっと、座ろうか」

 エマはそういって、椅子をちょっと触ってから、デスクのうえにじかに腰かけた。見渡(みわた)すかぎり、机上(きじょう)には何もない。床にも、壁際のキャビネットの中にも。

 ()()したあとみたいだ。

 朱里も、エマのまねをして座る。机のあいだの空間が狭すぎて、椅子には座りにくいのだ。特に、船外服を着たままでは。

「……このステーションはね、発着ドックとその管理用なの」

 だらりと長い脚をくんで、右手でもちあげた缶のラベルを(なが)めながら、エマはちいさな声で言った。

「発着ドック……、」

「宇宙船の。……わたしが乗ってきた実験船もそうだし、月基地とも……、」

 そういえば、というふうに、エマがいう。

「……月基地が、なかった」

「え?」

「月基地が、なかったの。太陽の発電衛星も。……このステーションは、残ってるのに。」

 じっと、こちらを見る。

 朱里は、どうしていいかわからずに、黙りこんでしまった。

(どうして、……そんなことを、私にいうんだろう)

 ぼんやりと、そう思う。

 黙っていると、エマは、目を伏せて動かなくなってしまった。

 石像、みたいに。

 それから、5分ほども経っただろうか。朱里は、てんてんと指を動かしながら、手持ちぶさたにボンヤリとしていた。

 唐突(とうとつ)に、じ、じ、と乾いた音。

 ホワイトノイズ、みたいな。

(……え、)

 あわてて、あたりを見回す。

 エマは、うつむいたまま動かない。額にかるく指をあてて、目を細めたまま硬直(こうちょく)している。

 エミーも、ぴたりと壁に背をむけて立ったまま。まるで、電源が切れたみたいに。

 ノイズ音は、止まらない。いや、だんだん、大きくなっていく。

 ……渦を巻くように。

「エマ、」

 声をかけると、かすかに、エマが動く。そちらに目をやる前に、

『朱里! 不具合が、』

 だれかの、……いや、よく知った声。腕輪に内蔵された、人工知能プログラムの。デイジーベルを出てからここまで、ずっと一緒(いっしょ)だった。

 ──タコのような顔が、一瞬だけ空中に浮かんで、すぐ消える。

「え……、」

「なに?」

 エマが、真顔で尋ねてくる。

「カセイジンが、……」

「火星人? なに、言ってるの?」

「……なんでもない、」

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