さむい廊下で、
朱里はため息をついた。その息が一瞬だけ白くなるのを見て、また、ため息。
……さむい。
カセイジンがいたらな、と思う。あれからずっと腕輪は不調らしく、人工知能のホログラムは出てきてくれない。
エマには、エミーがいるのに。
「……ほら、」
ぐい、とエマが、なにかを押し付けてくる。粗い布地の感触。オレンジ色。
船外服だ。
あわてて受け取る。隣にはエミーが立っていて、エマはもうすっかり身支度を終えている。ずいぶん、考えこんでいたらしい。
エマは、ぱちぱちと船外服の手袋をたたいて、なじませる。ヘルメットはかぶっていない。
「まずは、中を点検しないとね。何が起こってるのか、」
「……うん、」
飾り鎖を外しながら朱里がうなずく。
「ここのこと、あなた、知らないんだよね?」
「……知らない」
朱里はそう答えて、ちょっと不思議におもった。逆じゃないのか。
「そう、」
と、うなずいた瞬間、
脱ぎかけたトップスのむこうに、エマのぎゅっと寄せた眉が、ちらりと見えた。
「人がいるとは思えないけど。」
エマは、ひとりごとのようにそうつぶやく。
「そうなの?」
「だって、さっきまで空気なかったんだよ。ここ」
それもそうか、と朱里はうなずく。
「とりあえず、あちこち行ってみよう。……手伝ってね」




