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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
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お気に入りの服で

「……寒い、」

 エマが、ぼそりと呟く。

 半袖の腕にちいさく鳥肌がたって、白い肌にぶつぶつと。

 たしかに、寒い。空調は動いているはずだが、冬の夜のようにひんやりとした空気が、足元によどんでいる。 

 服装のせいかもしれない。エマは動きにくい船外服を脱いで、黒のアンダーシャツと薄手(うすで)のズボンだけで歩いている。荷物はなく、手ぶら。船外服は、エアロックのそばに置いてきた。

 朱里は、エマのとなりを歩きながら、ちいさく(うなず)いて、

「やっぱり、着てたほうがいいんじゃない。……宇宙服」

 言うと、エマはふと立ち止まって、こちらを向いた。

「ねえ、……いまさらだけど、あなたのその格好、なに? 仮装?」

「え、」

 朱里は一瞬だけ眉をしかめて、それから、目線を落とした。

 こちらも船外服からもとの服装に戻って、鞄を背負っている。……砂漠の国で、パ=ルリという女に仕立ててもらった服。薄布が上下にふんわりと広がって、飾り鎖と小さな宝石がきらきら光る。

 たしかに、宇宙ステーションには似つかわしくない。コスプレじみている。

「仮装、……じゃないけど」

「ふうん」

「……着替えたほうがいい?」

「いや、べつに」

 そっけなく言って、また歩きだそうとする。向き直りざま、ちらりとエアロックのほうを見る。まっすぐな廊下をずいぶん歩いた。戻るのは、少し大変そうだ。

「船外服をお持ちしましょう」

 エマの後ろにぴったりくっついて歩いていたエミーが、しずかな声でいう。エマは、にっこりと笑って、

「おねがい。……二つともね」

 エミーは丁寧(ていねい)に頭をさげて、エアロックにむけて、()た道を戻っていく。

「……暖房(だんぼう)が、まだちゃんときいてないみたい。電力も足りてないし……」

 エマは天井の給気口を見上げて、かすかに眉をしかめた。

「ねえ、……」

 朱里は、ぎゅっと両腕(りょううで)を抱きしめて擦りながら、エマの顔を見上げた。

「ここ、……どういう場所なの?」

「メインストリート。いま半分くらいかな」

「そうじゃなくて……、」

 大きな声をだしかける。エマは聞こえなかったように、ぱちぱちと(またた)きをして、

「ま、ほっとけばだんだん暖かくなるはずだから」

 そういって、……壁に背をもたせて、目をとじてしまった。

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