表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
160/206

闇のなかに、なにかが

 背後で、扉が閉まった。音はない。振り向いて確認する。たしかに、閉じている。

 エレベータの中みたいな小部屋(こべや)。天井のライトはかっと明るくて、目がくらみそうだ。反対側には、また同じようなドア。右側に、タッチ式の操作パネル。エレベーターみたいだ。

 パネルの(となり)には、レバーがふたつ。扉の外にあったのと同じ高さに。

 エマが、操作パネルに指を(すべ)らせる。反応が悪いのか、二回ほどやり直して、ようやく画面がちかちかと光る。

「わ、」

 おもわず、うめき声。なにかに足をとられて、転びそうになったのだ。突風(とっぷう)。いや、ここは真空のはずだ。ぎゅっと全身が()()けられるような錯覚をおぼえる。

 次の瞬間、船外服が、ぞろりと(うごめ)いた。そう感じただけかもしれない。

(なに、これ)

 叫び出しそうになるのを、喉をしめつけてこらえる。

 風。いや、空気。

 少しずつ、部屋に空気が満ちているのだ。

 体が揺れて倒れそうになるのをこらえて、待つ。


 およそ1分ほど、そのまま()える。


 エマが、タッチパネルのメーターをみて、かすかに首を動かす。それから、2つあるレバーを目でたしかめて、片方に両手をかける。


 がこんと、大きな音がした。


 奥の扉がひらく。ごう、と風が吹き出してきて、また転びそうになる。『気圧がね』と小さくエマがつぶやく声が、インカムからきこえる。その声がおわらないうちに、バランスをくずして膝をついてしまう。そのまま、前を見る。



 扉のむこうには、闇。



 朱里がぼうっとしていると、エマはいつのまにかヘルメットを外していた。かすかに眉をあげて、肉声で、

「もう、脱いでいいよ」

 ぼんやりとをそれを聞きながら、ヘルメットに手をかける。どうやって脱ぐんだろう、と考える。膝をついたまま。それから、目をとじて、また開く。

 扉のむこうは、まっくら。

 当たり前だ。ただ、電気がついていないだけ。夜の寝室(しんしつ)とおなじ。だけど、……


 なんだか、今日(きょう)はこわい。


(夢で見た、ような…、)

 く、と首になにかの感触。

 あわてて身じろぎすると、ぐいとおさえつけられて、宇宙服の首すじに力が入る。ばちん、と小さな音と、痛み。それからシュッと擦過音がして、ヘルメットがはずれる。

「こうやるの。わかった?」

 エマの顔がすぐ目の前にあった。

「……うん、」

 朱里は、ちいさな声でうなずいた。



 明るくなってみると、そこは、ただの狭い廊下だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ