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異世界八景  作者: 楠羽毛
砂漠の世界
16/206

ギマ


 ぼんやりと、思い出す。




 朝──


 ひどく痛む前頭部をおさえながら、なんとか身をおこす。

 体調が悪いのは、脱水のためか。硬い寝台も理由のひとつかもしれない。

 デイジーベルで手に入れたスーツのおかげで、少なくとも首から下は、快適な温度に保たてれている。砂漠で長時間歩いても生きていられたのは、そのためだろう。しかし、直射日光にやられた頭のダメージは、まだ回復していないようだ。

 喉がひりつくように乾いている。昨晩、わずかに与えられた水は、とっくに汗となって出ていってしまった。

 眉をしかめながら顔をあげると、すぐそばに、風の民がひとり、立っている。

 大柄で、ごつごつした手。

 ハ・ル・シティからはるか南の辺境で、空草などを狩りながら暮らしている男である。

「……ギマ、」

 朱里は、親しみをこめてそう呟いた。そのつもりだったが、実際には、かすれた声しか出なかった。

「アカリ、大丈夫か。」

「ええ、大丈夫」

 なるべく本当にきこえるように、答える。

「きのうより体調がわるそうだ。」

 わかるのか。自分には、ギマの表情もわからないが。

「ええ、……ちょっと、水が」

「そうか。……君が生きるには水が大量に必要なようだ。たぶん、食べ物もおれたちとは違うんだろう。」

 きのうむりに口に入れた枯れ枝のようなものを思い出して、朱里はうなずいた。

「ここでは、水はとても高価だ。ここにいたのでは、君の生活は危険だ」

「ええ……」

「ハ・ル・シティへ」

「ハ・ル・シティ?」

「おれの、生まれた街だ。君をそこにつれていくよう、キャラバンに頼んだ」

「キャラバン?……きてるの?」

「昨日から滞在している。水を買うために呼んだんだ」

「そう……。」

 朱里は、ぼんやりと視線をさまよわせた。

 なんとなくめのまえが霞んでみえるのは、脱水のためばかりではないだろう。

 涙がまぶたからおちるほど、水分に余裕はないが。

「……すまないな、アカリ」

 しずかに、ギマはいった。身じろぎもせずに。

「いいえ。……ありがとう、ギマ」

 うっすらと、心から笑いながら、朱里はこたえた。



 キャラバンを仕切っているのは、グーラニという痩せた男だった。

 かれは快活な笑い声をあげて、朱里を迎えいれた。

 袋いっぱいの水を与えられ、一息ついた朱里が疑問を呈すると、グーラニは言った。

「だいじょうぶ。おれたちの組織は大きいんだ」

「組織? キャラバンの?」

「違うよ、

 ……シティについたら、仲間に会わせてやろう。みんな、いいヤツさ」

 朱里はきょとんとして、カセイジンと目を見合わせた。

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