ギマ
ぼんやりと、思い出す。
*
朝──
ひどく痛む前頭部をおさえながら、なんとか身をおこす。
体調が悪いのは、脱水のためか。硬い寝台も理由のひとつかもしれない。
デイジーベルで手に入れたスーツのおかげで、少なくとも首から下は、快適な温度に保たてれている。砂漠で長時間歩いても生きていられたのは、そのためだろう。しかし、直射日光にやられた頭のダメージは、まだ回復していないようだ。
喉がひりつくように乾いている。昨晩、わずかに与えられた水は、とっくに汗となって出ていってしまった。
眉をしかめながら顔をあげると、すぐそばに、風の民がひとり、立っている。
大柄で、ごつごつした手。
ハ・ル・シティからはるか南の辺境で、空草などを狩りながら暮らしている男である。
「……ギマ、」
朱里は、親しみをこめてそう呟いた。そのつもりだったが、実際には、かすれた声しか出なかった。
「アカリ、大丈夫か。」
「ええ、大丈夫」
なるべく本当にきこえるように、答える。
「きのうより体調がわるそうだ。」
わかるのか。自分には、ギマの表情もわからないが。
「ええ、……ちょっと、水が」
「そうか。……君が生きるには水が大量に必要なようだ。たぶん、食べ物もおれたちとは違うんだろう。」
きのうむりに口に入れた枯れ枝のようなものを思い出して、朱里はうなずいた。
「ここでは、水はとても高価だ。ここにいたのでは、君の生活は危険だ」
「ええ……」
「ハ・ル・シティへ」
「ハ・ル・シティ?」
「おれの、生まれた街だ。君をそこにつれていくよう、キャラバンに頼んだ」
「キャラバン?……きてるの?」
「昨日から滞在している。水を買うために呼んだんだ」
「そう……。」
朱里は、ぼんやりと視線をさまよわせた。
なんとなくめのまえが霞んでみえるのは、脱水のためばかりではないだろう。
涙がまぶたからおちるほど、水分に余裕はないが。
「……すまないな、アカリ」
しずかに、ギマはいった。身じろぎもせずに。
「いいえ。……ありがとう、ギマ」
うっすらと、心から笑いながら、朱里はこたえた。
*
キャラバンを仕切っているのは、グーラニという痩せた男だった。
かれは快活な笑い声をあげて、朱里を迎えいれた。
袋いっぱいの水を与えられ、一息ついた朱里が疑問を呈すると、グーラニは言った。
「だいじょうぶ。おれたちの組織は大きいんだ」
「組織? キャラバンの?」
「違うよ、
……シティについたら、仲間に会わせてやろう。みんな、いいヤツさ」
朱里はきょとんとして、カセイジンと目を見合わせた。




