銀色の床のうえに、ぽつんと、宇宙船が
ぶかぶかの宇宙服をきて、大きな鞄をせおって、はしごを降りる。
「……あの、」
転びそうになりながら床をふんで、朱里はちいさく声をあげた。
『なに?』
ヘルメットのインカムから、前を歩くエマの声をきこえてくる。
エミーは船外服をきていない。この会話はきこえないはずだ。頭の中でそれを確認する。それから、
「エミーって、……アンドロイドなの?」
『いいえ』
エマはこちらを振り向きもせず、
『違う。……ただの、ロボット。ミラー知性体の』
「ちがうの? ミラー知性体って?」
『アンドロイドっていうのは、もっと精巧な人間型の機械のことでしょ。エミーは、ただの……、』
エマは、ほんの少し言葉をきって、……それから、平らな声で、
「ただの、人形だよ」
と、いった。
*
学校のグラウンドくらい広い空間に、白い球形の宇宙船がひとつ。支えの脚が、8本。二重ハッチから、伸縮式のはしごが床までまっすぐ。
他の船はない。機材も、整備員も。
広い、銀色の床の上に、ぽつんと。
しばらくして、エマが足を止める。とん、と軽くつんのめって、朱里もあわてて立ち止まる。どうにも、バランスが悪い。……宇宙服のせいだけではないような気がする。背負っているリュックが重いからかもしれない。
壁ぎわに、たどりついたのだ。
高い天井からのかすかな灯りに、重そうな扉がぼんやりと照らし出されている。
プールの塗装みたいな、淡い水色の。
学校の防火扉みたいだ。でも、それよりはずっと小さい。扉と壁のつなぎ目は、なめらかな白い素材で、ぴたりと吸着している。
扉の右横に、大きなレバー。朱里の額よりも上、ずいぶん高いところに。これも金属製で、なんだか固そうな。
「……よっと、」
エマが背伸びをして、レバーに両手をかける。船外服の大きな手袋で、動きにくそうにしながら。
ぐっと体重をかけて、少しずつ、おりていく。同時に、かすかな音。いや、振動。足元から伝わってくるようだ。吸着していた扉の端に、ちいさな隙間があいて、長い時間をかけてゆっくりと開く。




