表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
159/206

銀色の床のうえに、ぽつんと、宇宙船が

 ぶかぶかの宇宙服をきて、大きな鞄をせおって、はしごを降りる。

「……あの、」

 転びそうになりながら床をふんで、朱里はちいさく声をあげた。

『なに?』

 ヘルメットのインカムから、前を歩くエマの声をきこえてくる。

 エミーは船外服をきていない。この会話はきこえないはずだ。頭の中でそれを確認する。それから、

「エミーって、……アンドロイドなの?」

『いいえ』

 エマはこちらを振り()きもせず、

『違う。……ただの、ロボット。ミラー知性体の』

「ちがうの? ミラー知性体って?」

『アンドロイドっていうのは、もっと精巧(せいこう)な人間型の機械のことでしょ。エミーは、ただの……、』

 エマは、ほんの少し言葉をきって、……それから、平らな声で、

「ただの、人形だよ」

 と、いった。



 学校のグラウンドくらい広い空間に、白い球形の宇宙船がひとつ。支えの脚が、8本。二重ハッチから、伸縮(しんしゅく)式のはしごが床までまっすぐ。

 他の船はない。機材も、整備員も。


 広い、銀色の床の上に、ぽつんと。


 しばらくして、エマが足を止める。とん、と軽くつんのめって、朱里もあわてて立ち止まる。どうにも、バランスが悪い。……宇宙服のせいだけではないような気がする。背負っているリュックが重いからかもしれない。

 壁ぎわに、たどりついたのだ。

 高い天井からのかすかな灯りに、重そうな(とびら)がぼんやりと照らし出されている。

 プールの塗装(とそう)みたいな、(あわ)い水色の。

 学校の防火扉(ぼうかとびら)みたいだ。でも、それよりはずっと小さい。扉と壁のつなぎ目は、なめらかな白い素材で、ぴたりと吸着している。

 扉の右横に、大きなレバー。朱里の額よりも上、ずいぶん高いところに。これも金属製で、なんだか固そうな。

「……よっと、」

 エマが背伸(せの)びをして、レバーに両手をかける。船外服の大きな手袋で、動きにくそうにしながら。

 ぐっと体重をかけて、少しずつ、おりていく。同時に、かすかな音。いや、振動。足元から伝わってくるようだ。吸着していた扉の端に、ちいさな隙間があいて、長い時間をかけてゆっくりと開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ