らせんのついた立方体
……しばらくして、ドアが開いた。
エミーが顔をだす。倉庫にいってきたらしい。器用に肩をすぼめて、丸い入り口から這い出してくる。小さな左手で、軽々と体重をささえて。
右手で、大きな、灰色の立方体をつかんでいる。直角のかどを、てのひらでぎゅっと握って。立方体の横には30センチほどの取っ手。上部には、くるりと螺旋を描いて分岐する、奇妙な突起がついている。
どぷんと、かすかな水音がした。
「どうぞ、エマ」
エミーは、立方体を、ひょいとエマに手渡そうとした。エマはかすかに笑ったまま、ちょっと身体をかたむけて、それを避けた。
「ありがとう、エミー」
……さっきまでとはうってかわって、やさしい声で。
「アカリに渡して」
「はい」
エミーは、くるりと向きをかえて、朱里に正対した。
ぴくりとも動かない、仮面みたいな無表情のまま。
「……ありがとう」
と、朱里はつぶやいて受け取った。
片手で抱えようとして、よろけてしまう。ずっしりと重い。
……また、どぷん、と音がする。水のタンク、なのだろうか。
「……コップ、とか。ある?」
ちいさく、そうつぶやく。その前に、まず注ぎ方がわからないのだが。
「あ、こうするの」
エマが立ち上がって、手をだしてくる。突起に指をかけて力を入れると、螺旋がくるりと回って、中から、シュッと高い音がする。
「……今ので、呑み口が消毒されたから」
立方体の上部に、人差し指をあてる。よく見ると、かすかに切れ目がある。かるく押しつけるように擦ると、ぱちんと音がして、マグカップほどの大きさの立方体が、タンクから分離した。
かるく振ると、小さな立方体の1面が変形して、急須の吸い口のようなものが出現する。
「ここに口あてて、飲んで。」
朱里は、タンクを足元において、あわててそれを受け取った。かたい感触。ひんやりと冷えて、アルミの水筒みたい。
「これ、……水が入ってるの?」
「そ。知らないの?」
もう一度、エマは朱里の上からまで、ねめつけるように見た。
「あなた、本当にこのステーションの人じゃないの?」
「うん。……あの、日本の、中学生」
なんと言っていいかわからずに、とりあえずそう答える。
地球の、ではなく、日本の。その単語が、通じるのかどうか、不安になる。
そもそも、ここは、……




