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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
156/206

らせんのついた立方体

 ……しばらくして、ドアが開いた。

 エミーが顔をだす。倉庫にいってきたらしい。器用に肩をすぼめて、丸い入り口から()い出してくる。小さな左手で、軽々と体重をささえて。

 右手で、大きな、灰色の立方体(りっぽうたい)をつかんでいる。直角のかどを、てのひらでぎゅっと握って。立方体の横には30センチほどの取っ手。上部には、くるりと螺旋(らせん)を描いて分岐(ぶんき)する、奇妙な突起(とっき)がついている。

 どぷんと、かすかな水音がした。

「どうぞ、エマ」

 エミーは、立方体を、ひょいとエマに手渡(てわた)そうとした。エマはかすかに笑ったまま、ちょっと身体をかたむけて、それを()けた。

「ありがとう、エミー」

 ……さっきまでとはうってかわって、やさしい声で。

「アカリに(わた)して」

「はい」

 エミーは、くるりと向きをかえて、朱里に正対した。

 ぴくりとも動かない、仮面みたいな無表情のまま。

「……ありがとう」

 と、朱里はつぶやいて受け取った。

 片手で(かか)えようとして、よろけてしまう。ずっしりと重い。

 ……また、どぷん、と音がする。水のタンク、なのだろうか。

「……コップ、とか。ある?」

 ちいさく、そうつぶやく。その前に、まず()(かた)がわからないのだが。

「あ、こうするの」

 エマが立ち上がって、手をだしてくる。突起に指をかけて力を入れると、螺旋がくるりと回って、中から、シュッと高い音がする。

「……今ので、()(くち)が消毒されたから」

 立方体の上部に、人差し指をあてる。よく見ると、かすかに切れ目がある。かるく押しつけるように()ると、ぱちんと音がして、マグカップほどの大きさの立方体が、タンクから分離(ぶんり)した。

 かるく振ると、小さな立方体の1面が変形して、急須(きゅうす)の吸い口のようなものが出現する。

「ここに口あてて、飲んで。」

 朱里は、タンクを足元において、あわててそれを受け取った。かたい感触。ひんやりと冷えて、アルミの水筒(すいとう)みたい。

「これ、……水が入ってるの?」

「そ。知らないの?」

 もう一度、エマは朱里の上からまで、ねめつけるように見た。

「あなた、本当にこのステーションの人じゃないの?」

「うん。……あの、日本の、中学生」

 なんと言っていいかわからずに、とりあえずそう答える。

 地球の、ではなく、日本の。その単語が、通じるのかどうか、不安になる。


 そもそも、ここは、……

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