クロヒナギク、みたいな
「それで、あなたは?」
エマ=ライトは、きびきびとした口調で尋ねてきた。とつぜん現れた、奇妙な格好をした女の子に、おどろいて悲鳴をあげるでもなく。
「わたしは、……向田朱里」
朱里は、ともかくもそう答えた。……なんと説明したものか。まごついている間に、エマは、
「ここはどうなっているの? あなたはステーションの乗組員? どうして応答がなかったの? ドックの生命維持装置が働いていないのはなぜ? 地球基地が応答しないのは別の理由? それに、月基地も、ダイソン衛星も、──」
おちついた声で、……けれども矢継ぎ早に、速いテンポで問いかけてくる。朱里が黙っていると、すぐに、
「エミー!」
と、小さくさけぶ。……その、唇が動く一瞬前に、
窓際の、黒髪の女が、すっと動いている。
「なんでしょう、エマ。」
ほとんど足音をたてずに、三歩すすんで、座席にかけているエマの右肩の、すぐそばで、かるく頭をさげる。
首をまげても、女の長い黒髪は、……うなじのラインにそって、ぴったりと背中にくっついている。重力に逆らっているみたいに。
間近でみると、思ったより幼い顔立ちにみえる。目が大きくて、ふっくらした頬に、小さな鼻。そういえば、体格も小さい。
……たぶん、エマよりずっと年下。
朱里と、そう変わらないのかもしれない。少なくとも、見た目の年齢は。
「水を持ってきてくれる? この子、喉が渇いてるのかも」
「はい、エマ」
黒髪の女──エミーは、きれいな高い声でそうこたえて、朱里の横をすっと通り抜けていった。丸窓に、ぐいと体をいれて、出ていく。
目も、あわせずに。
(やっぱり、似てる……、)
「……クロヒナギク、かな」
おもわず口をついて出たことばを、エマが聞きとがめた。
「なに? ……花がどうかしたの?」
「いえ、……べつに。」
朱里は首をふって、ため息をついた。
「……ねえ、もう一度聞くけど、」
エマは、ほんの少し眉を動かして、……それだけで、ほとんど真顔で。
「アカリ。……ここで、何があったの?」
そう、きかれても、
朱里は、何もいえなかった。