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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
154/206

クロヒナギク、みたいな

「それで、あなたは?」

 エマ=ライトは、きびきびとした口調で(たず)ねてきた。とつぜん現れた、奇妙(きみょう)な格好をした女の子に、おどろいて悲鳴をあげるでもなく。

「わたしは、……向田朱里」

 朱里は、ともかくもそう答えた。……なんと説明したものか。まごついている間に、エマは、

「ここはどうなっているの? あなたはステーションの乗組員? どうして応答がなかったの? ドックの生命維持装置が働いていないのはなぜ? 地球基地が応答しないのは別の理由? それに、月基地も、ダイソン衛星も、──」

 おちついた声で、……けれども矢継(やつ)(ばや)に、速いテンポで問いかけてくる。朱里が(だま)っていると、すぐに、

「エミー!」

 と、小さくさけぶ。……その、唇が動く一瞬前に、

 窓際(まどぎわ)の、黒髪の女が、すっと動いている。

「なんでしょう、エマ。」

 ほとんど足音をたてずに、三歩すすんで、座席にかけているエマの右肩(みぎかた)の、すぐそばで、かるく頭をさげる。

 首をまげても、女の長い黒髪は、……うなじのラインにそって、ぴったりと背中にくっついている。重力に逆らっているみたいに。

 間近でみると、思ったより幼い顔立ちにみえる。目が大きくて、ふっくらした(ほお)に、小さな鼻。そういえば、体格も小さい。

 ……たぶん、エマよりずっと年下。

 朱里と、そう変わらないのかもしれない。少なくとも、見た目の年齢(ねんれい)は。

「水を持ってきてくれる? この子、喉が(かわ)いてるのかも」

「はい、エマ」

 黒髪の女──エミーは、きれいな高い声でそうこたえて、朱里の横をすっと(とお)り抜けていった。丸窓に、ぐいと体をいれて、出ていく。

 目も、あわせずに。

(やっぱり、似てる……、)

「……クロヒナギク、かな」

 おもわず口をついて出たことばを、エマが聞きとがめた。

「なに? ……花がどうかしたの?」

「いえ、……べつに。」

 朱里は首をふって、ため息をついた。

「……ねえ、もう一度聞くけど、」

 エマは、ほんの少し眉を動かして、……それだけで、ほとんど真顔で。

「アカリ。……ここで、何があったの?」

 そう、きかれても、

 朱里は、何もいえなかった。

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