すこし、違ってみえる文字のレタリング
軽装。半袖のやわらかそうな白いシャツ。大きなロゴが、胸のところに。ロゴは、たぶんアルファベットの筆記体。N……なんとか。英語だろうか。図案化されているせいか、朱里の知っている文字とは少し違ってみえる。
下半身は、細身の、藍色のズボン。裾のところはきゅっと絞られている。ポケットはない。そのかわり、腰のところに、黒い、小さなポーチがついている。プラスチックかなにか、硬そうな素材の。
半袖で寒くないのか、と考えてから、気づく。この部屋は、ずいぶん暖かい。空調が効いているらしい。ただし、風は感じない。それらしき音も、ない。
立ち上がって、ゆっくりとこちらを向いた。あらためて見ると、それほど背は高くない。朱里と10センチも違わないだろう。
大きな目を、ぱっちりと開けて、こちらを見ている。さっきまで、微動だにしなかったのに。
眠っていたのだろうか。いや、それにしては──、
それから、壁際の女が、ぴくん、と身をふるわせる。
ぱちんと、まばたき。眼球が、かすかに動いて、……少しずつ、胸が上下しはじめる。呼吸を、いま、はじめたように見える。錯覚かもしれないが。
(やっぱり、ロボットなのかな)
そう考えて、眉をひそめる。
いままで出会ったことのあるロボットや人工知能を、思い出してみる。まっさきに浮かぶのは、カセイジンと、デイジー。どちらも、似ていない。それから……、
(クロヒナギクと、黒機兵……)
ぼんやりと、思いだす。もう遠い昔のことみたいに。
この旅をはじめたばかりの頃に出会った、宇宙船デイジーベルの召使いたち。
……無機質な、機械の。
この黒髪の女が、それに似ているというわけではないが……、
「あの、」
朱里が、かすかな声をあげると、
「……だ、れ?」
シートに座っていた金髪の女が、かすれた声で、そう、いった。
*
金髪の女は、エマ=ライトと名乗った。
おちついた、静かな声で。




