ショーウィンドウに立つマネキンみたいに
最初に目に入ったのは、髪。
あざやかな金髪。
目が慣れるまで、3秒ほどかかって、座席にかけた人間の後頭部だと気づく。
狭い部屋の中心、面積のほとんどを占める大きな黒い座席。たぶん、革張りの。美容室の椅子みたいだ、と思う。それよりも大きくて、高級そうだが。
シートの両サイド、手すりの上側には、緑と青の線がかすかに光る、小さなディスプレイ。いや、タッチパネルか。それから、手をのばせば触れるくらいの距離に、車の速度メーターみたいなアナログの計器がいくつかと、ちかちかと青白く光る画面がさらに3つ。
ちらりと、足下を見る。
平らな床に、ちいさなへこみがいくつか。床下収納の取っ手か何かだろうか。天井にも、似たようなものがある。
全体的に、雑然としている。ただ、床に置かれたものは、何もない。
シートに座っているのは、女のようだ。耳までそろえた金髪に、かすかに見えるうなじ。大人の体格だが、肌はきれいで、なんとなく十代の少女のようにも見える。
それから、もうひとり。
朱里と反対側の壁に、背をもたせるようにして立っている、
──黒髪の、女。
すらりと痩せて、姿勢がとてもよい。ショーウィンドーに立つマネキンみたいに、垂直に。かっちりした襟のある、青いワンピースをきて、まっすぐ立っている。
いや──、
(人間?)
朱里は、迷いながら目をしばたかせた。女の肌の質感。じっと目をこらしてみると、ざらざらして、硬そうだ。それに、着ている服も、なんだか、──
そこまで考えて、ぞくりと震える。
ドアを開けて、もう10秒ほど経っているのに、壁際の女も、座席の女も、なんの反応もみせない。
壁際の女は、完全にこちらを認識しているはずだ。はっきりまぶたを開いて、こっちを向いている。
なのに、目線が合わない。
「アノ、」
朱里は、ちいさな声でつぶやいた。
それから、……一瞬だけ、手首の白い腕輪に目を落として、勇気を奮いおこす。もう一度、大きな声で。
「あの!」
シートに座っているほうの女が、ゆっくりと身をおこした。




