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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
152/206

ショーウィンドウに立つマネキンみたいに

 最初に目に入ったのは、(かみ)

 あざやかな金髪(きんぱつ)


 目が慣れるまで、3秒ほどかかって、座席にかけた人間の後頭部だと気づく。

 狭い部屋の中心、面積のほとんどを()める大きな黒い座席。たぶん、革張(かわば)りの。美容室の椅子みたいだ、と思う。それよりも大きくて、高級そうだが。

 シートの両サイド、手すりの上側には、緑と青の線がかすかに光る、小さなディスプレイ。いや、タッチパネルか。それから、手をのばせば触れるくらいの距離に、車の速度メーターみたいなアナログの計器がいくつかと、ちかちかと青白く光る画面がさらに3つ。

 ちらりと、足下(あしもと)を見る。

 平らな床に、ちいさなへこみがいくつか。床下(ゆかした)収納の取っ手か何かだろうか。天井にも、似たようなものがある。

 全体的に、雑然としている。ただ、床に置かれたものは、何もない。

 シートに座っているのは、女のようだ。耳までそろえた金髪に、かすかに見えるうなじ。大人(おとな)の体格だが、肌はきれいで、なんとなく十代の少女のようにも見える。

 それから、もうひとり。

 朱里と反対側の壁に、背をもたせるようにして立っている、

 ──黒髪(くろかみ)の、女。

 すらりと()せて、姿勢がとてもよい。ショーウィンドーに立つマネキンみたいに、垂直に。かっちりした(えり)のある、青いワンピースをきて、まっすぐ立っている。

 いや──、

(人間?)

 朱里は、迷いながら目をしばたかせた。女の肌の質感。じっと目をこらしてみると、ざらざらして、(かた)そうだ。それに、着ている服も、なんだか、──

 そこまで考えて、ぞくりと(ふる)える。

 ドアを開けて、もう10秒ほど経っているのに、壁際(かべぎわ)の女も、座席の女も、なんの反応もみせない。

 壁際の女は、完全にこちらを認識しているはずだ。はっきりまぶたを開いて、こっちを向いている。

 なのに、目線が合わない。

「アノ、」

 朱里は、ちいさな声でつぶやいた。

 それから、……一瞬だけ、手首の白い腕輪に目を落として、勇気を奮いおこす。もう一度、大きな声で。

「あの!」

 シートに座っているほうの女が、ゆっくりと身をおこした。

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