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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
150/206

……もうじき


 ボンヤリしているうちに、時間が経って……、少しずつ、体が(しず)んでいく。

 やはり、重力はあるのだ。

 いや、さっきまでは、たしかに、浮いていた。

 とすると、今、重力が発生したのか。

 どれくらい時間がたったのか、わからない。また、夢うつつ。


 ……起きなければ、と思う。

 半身が、まだ夢のなかにあるようだ。


 ぼんやりしている間に、2回、ドアがあいた。たぶん、ドアだと思う。

 なにかが動く音がして、人間のようなものが入ってきて、すぐに出ていった。

 それだけ。

 暗くて、それ以上はわからない。

「……カセイジン、」

 ちいさく、つぶやく。返事はない。

 右手を見る。

 手首の肉のなかに、白い、つるつるした腕輪(うでわ)()め込まれている。

 異物感はない。筋肉も、自由に動く。表面は陶器(とうき)のようだが、とても軽くて、実際はどういう素材でできているのか、よくわからない。朱里には想像もつかないような、高度な技術でつくられたものだ。

 宇宙船デイジーベルの支配者、クラデ王女に、むりやり装着させられた、インプラントの端末(たんまつ)

 これは、転送機。

 それから、翻訳機(ほんやくき)

 ホログラムと人工知能──、

「カセイジン!」

 もう一度、(さけ)ぶ。腕輪に内蔵された、人工知能プログラムの名前を。

 反応はない。いつもなら、わざわざ呼ぶまでもなく、朱里のそばに勝手に浮いているのに。


 ……ため息。


 体は、とっくに床についている。

 よろよろと、身をおこす。体の重みは、すっかりもとに戻って──いや、ほんの少しだけ、いつもより軽いような気がする。体調が悪いせいかもしれないが。

(……ここ、どこだろ)

 知らない世界。それはたしかだ。

 クラデ王女の陰謀(いんぼう)で、故郷の地球から転送されて以来、おおよそ一週間ごとに、強制的に別の世界に移動させられている。

 今の世界が、6つ目。

 予定では、もうじき、もとの地球に戻れることになっている。


 と、いうことは──、

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