……もうじき
ボンヤリしているうちに、時間が経って……、少しずつ、体が沈んでいく。
やはり、重力はあるのだ。
いや、さっきまでは、たしかに、浮いていた。
とすると、今、重力が発生したのか。
どれくらい時間がたったのか、わからない。また、夢うつつ。
……起きなければ、と思う。
半身が、まだ夢のなかにあるようだ。
ぼんやりしている間に、2回、ドアがあいた。たぶん、ドアだと思う。
なにかが動く音がして、人間のようなものが入ってきて、すぐに出ていった。
それだけ。
暗くて、それ以上はわからない。
「……カセイジン、」
ちいさく、つぶやく。返事はない。
右手を見る。
手首の肉のなかに、白い、つるつるした腕輪が埋め込まれている。
異物感はない。筋肉も、自由に動く。表面は陶器のようだが、とても軽くて、実際はどういう素材でできているのか、よくわからない。朱里には想像もつかないような、高度な技術でつくられたものだ。
宇宙船デイジーベルの支配者、クラデ王女に、むりやり装着させられた、インプラントの端末。
これは、転送機。
それから、翻訳機。
ホログラムと人工知能──、
「カセイジン!」
もう一度、叫ぶ。腕輪に内蔵された、人工知能プログラムの名前を。
反応はない。いつもなら、わざわざ呼ぶまでもなく、朱里のそばに勝手に浮いているのに。
……ため息。
体は、とっくに床についている。
よろよろと、身をおこす。体の重みは、すっかりもとに戻って──いや、ほんの少しだけ、いつもより軽いような気がする。体調が悪いせいかもしれないが。
(……ここ、どこだろ)
知らない世界。それはたしかだ。
クラデ王女の陰謀で、故郷の地球から転送されて以来、おおよそ一週間ごとに、強制的に別の世界に移動させられている。
今の世界が、6つ目。
予定では、もうじき、もとの地球に戻れることになっている。
と、いうことは──、




