表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
149/206

よくない夢が残っている、ような

 故郷を求めてさまよう宇宙船。

 砂漠(さばく)の都市ハ・ル・シティ。

 動物たちの住む地底世界。

 大河に浮かぶ方舟(はこぶね)

 仮想世界の迷宮(めいきゅう)

 生きた島。


 それから──、

 


 朱里(あかり)は、陰鬱(いんうつ)な気分で目を開いた。まっくら。でも、真の(やみ)ではない。

 かすかな、光の気配が(ただよ)っている。 

 頭のなかに雲がかかっている。まぶたを動かすと、(なみだ)がにじんでくる。夢のなかで泣いていたらしい。

 目をつむって、ゆっくりと思い出す。向田(むこうだ)朱里。13歳。長女で一人っ()。日本の、海辺の町の生まれ。とおい、遠い世界の。

 少しだけ、からだを動かそうとする。うまくいかない。

 足が、どこにもつかない。まだ、夢のなかにいるのか。


 それとも、また──、


 だんだんと体の感覚が戻ってくる。体温と、骨のかたさと、(はだ)にふれる冷気。

 胃の内容物が、(のど)まで逆流する。まるで、上下がひっくりかえったような、……いや、上下がなくなったような、

(この感覚……、)

 味わったことがある。ずいぶん前に、ほんのわずかな時間。

 宇宙の、感覚だ。

 こわごわ、目をあける。暗い。が、空気はあるようだ。

 重力は、ない。

 浮いている。

 どことなく(ほこり)っぽい空気が肺に入ってくる。深呼吸しようとする。喉がひりついて、うまく動かない。

 かるく、手を振ってみる。すぐに(かべ)にあたって、反動で体が押し()される。反対側の壁に、背中があたる。

 そんなに広くない部屋(へや)みたいだ。

 部屋。そう。たぶん、屋内。

 宇宙空間では、ない。


 ……ああ、()き気がする。


 無重力のせいだけではない。さっきまで見ていた夢のせいだ。


 地球の夢。

 よくない夢。

 それだけを、ぼんやり覚えている。

 ただ──、


「あたし、……なんで、死のうと思ってたんだっけ」

 朱里は、童顔に不似合いな赤い(くちびる)を、かすかにふるわせて、ぽつりと、つぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ