よくない夢が残っている、ような
故郷を求めてさまよう宇宙船。
砂漠の都市ハ・ル・シティ。
動物たちの住む地底世界。
大河に浮かぶ方舟。
仮想世界の迷宮。
生きた島。
それから──、
*
朱里は、陰鬱な気分で目を開いた。まっくら。でも、真の闇ではない。
かすかな、光の気配が漂っている。
頭のなかに雲がかかっている。まぶたを動かすと、涙がにじんでくる。夢のなかで泣いていたらしい。
目をつむって、ゆっくりと思い出す。向田朱里。13歳。長女で一人っ子。日本の、海辺の町の生まれ。とおい、遠い世界の。
少しだけ、からだを動かそうとする。うまくいかない。
足が、どこにもつかない。まだ、夢のなかにいるのか。
それとも、また──、
だんだんと体の感覚が戻ってくる。体温と、骨のかたさと、肌にふれる冷気。
胃の内容物が、喉まで逆流する。まるで、上下がひっくりかえったような、……いや、上下がなくなったような、
(この感覚……、)
味わったことがある。ずいぶん前に、ほんのわずかな時間。
宇宙の、感覚だ。
こわごわ、目をあける。暗い。が、空気はあるようだ。
重力は、ない。
浮いている。
どことなく埃っぽい空気が肺に入ってくる。深呼吸しようとする。喉がひりついて、うまく動かない。
かるく、手を振ってみる。すぐに壁にあたって、反動で体が押し出される。反対側の壁に、背中があたる。
そんなに広くない部屋みたいだ。
部屋。そう。たぶん、屋内。
宇宙空間では、ない。
……ああ、吐き気がする。
無重力のせいだけではない。さっきまで見ていた夢のせいだ。
地球の夢。
よくない夢。
それだけを、ぼんやり覚えている。
ただ──、
「あたし、……なんで、死のうと思ってたんだっけ」
朱里は、童顔に不似合いな赤い唇を、かすかにふるわせて、ぽつりと、つぶやいた。