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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
148/206

緊急再稼働シーケンス

 メインステーションのシステムに入る。ここから全てが操作できるわけではないが、最小限の情報は見られる。

 やはり、電力不足。宇宙船から供給したわずかなエネルギーで、太陽光パネルのエラーチェックを指示する。とりあえず、メインステーションの近くの1ブロック。少しでも電力源を確保しないと、燃料が()きたら真っ暗だ。

 エラーはない。発電システムは生きているらしい。

 カメラを起動する。それから、太陽光パネルの展開を指示。


 画面を凝視(ぎょうし)する。


 メインステーションは、地上から屹立(きつりつ)する高い高い塔のなかばだ。

 大気圏(たいきけん)よりずっと上、地球の重力が遠心力と拮抗(きっこう)する点より、ほんのわずか上。

 赤道上に6本ある塔のメインステーションを、軽いチューブがつなぎ、遠心力でぴんと張っている。ぐるりと、円を(えが)くように。

 その、チューブの両脇に、太陽光パネルが折りたたまれている。

 エマのいる発着ステーションの直下、いや、エマからみれば、はるか頭上。大西洋エレベータのメインステーションの前後、チューブの(わき)から、何百枚もの巨大な長方形の太陽光発電パネルが、少しずつ、ふわりふわりと(つばさ)を広げていく。

 しばらく見入ってから、はっとして次のコマンドを送る。

 センサを起動させる。

 まずは、この奥。発着ドックの有人エリア。慣れないインターフェースに苦労しながら、インジケータを読み取る。

 まずは気圧、……ほぼゼロ。

 気温、……マイナス52度。

 やっぱり、人はいないのだ。

 少なくとも、生命維持(いじ)システムは稼働していない。

 メインステーションのセンサを読み取ろうとして、やめる。その前に、発着ドックの与圧(よあつ)機器をチェック。……自動チェックの範囲では、問題なし。おそらく、空気は()れていない。

 事故ではない。たぶん。

 与圧指示をだす。エラーはなし。与圧は可能だ。

 ライフラインは生きている。

 それがなにを意味するのか、わからない。酸素は循環(じゅんかん)機と貯蔵大気のほかにメインステーションから送る非常用のパイプもあるはずだが、それが生きているのかも、ここからでは不明だ。メインステーションには、もっと高度な大気生成システムもあった筈だが……、

 とにかく、画面上では、与圧が進んでいることになっている。

 一息つく。与圧には長い時間がかかる。ひとまず、また実験船に戻ろう。


 わからないことだらけだ。

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