モード3
ため息をついて、やり方をかえる。
モードをかえて、マニピュレーターのさらに先にある、三本の『指』を動かすことにする。
指の太さは、人間の手と同じくらい。関節の数は、人間の倍。熟練した操縦者でなければ、まともに扱えるものではない。
もちろん、エマは熟練者ではない。
ともかく、マニピュレーター本体の保持をオートバランサーにまかせて、『指』をハッチのはしに据える。
カメラのむこうに、ハッチの外部操作盤が目に入る。あれを使えば、と一瞬考えて、あきらめる。マニピュレーターの指では大きすぎて、操作盤は扱えない。船外服を着て、直接操作すれば、……いや、そもそも内部からロックを解除しないと、操作盤は起動しない。だめだ。
とにかく、やるしかない。
ハッチの端、気密材でぴったりくっついている部分に、指をねじこむ。
もう一度。
ハッチはぴくりともしない。
……こうなれば、最後の手段だ。
深呼吸して、コントローラから手を抜く。
オートバランサーのモードをかえて、宇宙船とステーションの相対位置を指定する。
かすかな振動が、座席に伝わって来る。
宇宙船をハッチに正対させる。ハッチの端に据えたマニピュレータの指を、ぐっとねじこんだままで。
いま動いているのは、液体燃料の補助エンジンだ。その向きを、ハッチの反対側にあわせる。手動では不安なので、軸をあわせる作業はオートでやらせる。
ぴったり、合っていることを3回確認する。
深呼吸がわりに、ため息ひとつついてから、全開。
この世の終わりみたいな、振動が伝わってくる。
宇宙船の外殻より、ハッチの接合部分のほうが絶対的に弱いはずだ。少なくとも、船が壊れることはない。
そう思っていても、どきどきする。
振動、また振動。座席が跳ねる。それから、音。轟音。
ふたたび、轟音。
カメラにノイズが走って、すぐに暗くなる。壊れたかと思ったが、単に暗いだけのようだ。屋内には、太陽の光は届かない。
成功だ。
ハッチは破壊された。
ひととおりチェックを走らせる。宇宙船のどこからもエラーは出ていない。外殻も。
が、燃料がもうほとんどない。再発進どころか、船内電力の再充電にも足りない。ということは、イオンエンジンの再起動もできないということだ。
厳密な燃料計算は少々サボっていたが、それにしたって、減りが早い。もっと予備はあった筈だ。
……考えても、仕方がない。ログを見るのは、落ち着いてからでいいだろう。いや、ステーションの職員に任せたっていい。
ともかく、帰ってきたのだ。
「エミー! 船外服をとってきてくれる?」
エマは、くるりと振り返って、ずっと控えていたアンドロイドに、そう命じた。




