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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
144/206

自操式マニピュレータ

 帰還寸前になっても、地球からの応答はない。

 着陸予定の軌道ステーションは、かわらず存在している。ただ、なんの返答もない。地上基地も。

 応答ねがいます、とまた20回ばかりくりかえして、いったんあきらめる。自動通信にきりかえて、耳だけ傾ける。返答は一度もない。

 地球の衛星軌道に近づいていく。

 からだが重い。操作室の椅子にすわって、肩を大きくまわす。ベルトも電磁靴も使わず、体重をかけて座る感覚を、久々に思いだす。

 地球の重力ではない。遠心力だ。つまり、地球は頭上にある。

 発着ステーションは、地上から立ち上がる巨大な塔のような軌道エレベータの先端にあり、エレベータを安定させるためのバラストを兼ねている。

 船は、ステーションの回転にぴったりつきしたがって、およそ500メートルほど距離をとっている。

 わずか500メートル。いつでも、接触できる状態だ。

 しかし、勝手に降りるわけにはいかない。そもそも、入り口が開かない。

 何度も、信号を送る。

 何度も、何度も。


 また、数時間──、


 このまま回っていても、どうにもならない。

 そう思いながら、また、打電する。応答はない。

 決心する。

 こじ開けるしかない。

「マニピュレータ起動、」

 どきどきしながら、いちいち口に出して、ホログラムパネルを操作する。

 ボール状の船の両脇に収納されている、2本の腕。

 パワーは弱いが、接舷用のハッチを壊して開けることくらいならできるはずだ。

 あまり自信はない。非常用のツールで、訓練は数回しかしていない。が、とにかく、起動する。

 マニピュレータがせり出していく振動が、操縦席まで伝わってくる。

 立体モデルが画面に表示される。それから、カメラ映像。ステーションと相対速度をあわせているので、画面はほとんど動かない。

 さすがに、ホログラムパネルでは操作しきれないので、物理コントローラを起動する。グローブ型の、無骨なコントローラ。10指を同時につかわねばならない。

 3D表示の画面のなかでマニピュレーターが動くと、振動が指先につたわってくる。それを確認しながら、船外カメラの映像も、同時に見る。

 苦手な感覚だ。まあ、やるしかない。

 画面のはじに、船のモーメントへの影響値が表示されている。

 コンピュータの補助が欲しいな、と思う。残念ながら、その機能はない。リアルタイムの細かい操作は、機械の手にあまるらしい。そのかわり、船体への反動は、ある程度、自動で舵をきって吸収してくれる。

「ハッチ、開ける」

 記録のため、そうつぶやく。

 オートバランサーの数値を横目で見る。腕を振るだけであれば問題ないが、思い切りぶつけても大丈夫、というわけではない。だから、難しい。


 かるく、叩く。

 反動でバランサーが動作する。


 もう一度。


 バランサーの閾値を超えそうになり、警告音。

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