ダイソン・プロジェクト
ふたたび目をあけると、地球はずいぶんと近くにあった。
画面の時刻表示をみる。船内時間で、5時間ほど経ったようだ。のろのろと体をのばして、もういちどディスプレイにむかう。答えは、出ていない。ステーションからの応答もない。
最初は手動。二回目以降は自動で。地球のステーションに、何度もメッセージを送っているが、反応なし。これも謎。
カメラの映像に切り替える。肉眼でも、もう見えるはずだが。とにかく、拡大して……、
地球を探しながら、ふと、気づく。
ずっと大きい光源。太陽。光学処理されたカメラ画像を、注視する。拡大。さらに拡大。
黒点。フレア。吹き上がるプロミネンス。
それだけ。
ダイソン・プロジェクトの衛星が、ひとつも見えない。
まさか、と思う。太陽の近くを、地球に影がささないよう電磁力で位置を調整しながら回転する、太陽光パネルの羽をもつ、妖精のような衛星群。この角度なら、群れの大部分が見えるはず。
……なにか事故でもあって、堕ちてしまったのか。
それにしたって、まさか、全部?
画像処理の都合で、モニターに映って見えていないだけならばよいが……。ぞっとしながら、他のところに目をむける。地球。その前に、月が目に入る。昼と夜の位置関係を頭のなかで計算し、月基地が可視部分にあることを確認する。
ない。月基地は見えない。
地球を見る。健在だ。赤道から高くそびえる6本の軌道エレベータも、それをつないでぐるりと地球を囲む宇宙ネックレスも。少なくとも、ここから見える範囲は、無事だ。
ただし、応答はない。通常のプロトコルに沿ったレーザー通信だけでなく、電波も、照射灯のモールス信号さえ。
エマは、ひざをかかえてそっと目をとじた。わからない。
何も。




