時刻の問題
ため息をついて、座席を蹴る。無重力の船内で、ふわりと浮き上がる。本来はシートベルトをしていないといけないのだが、いつも省略してしまう。狭い船内で、天井にタッチ。
考える。
また、考える。
式を、頭のなかでもう一度検討する。間違ってはいない。だいたい、誤差を検出しているだけなのだから、2回もつくりなおして間違っているはずがない。となると、おおもとのマップがおかしいのか──、
観測誤差?
機器の異常?
エラーチェッカーを走らせる。異常なし。重力センサの異常であれば、遠くの天体と近くの天体で、誤差の大きさがはっきり変わるはずだが、その兆候はない。太陽はじめ近くの天体で確認したところ、重力センサと光学センサはぴったり一致している。計測結果ではなく、天体の位置が、ちがうのだ。
とすると、古いマップが間違っているのか。
いや、となると、
──やはり、時計が?
もう一度、計算式を組む。高速移動した際に時間がずれることは、経験的にわかっているが、厳密な算出式はまだ完成していない。……いちおう、観測結果から、自動で補正されているはずだが──、
とにかく、時間の流れをかえて、星の動きをもう一度照合してみる。経過時間の違いを変数にして、……
どうしても整合しない。時刻の問題ではないのだ。
(……いつから合わないんだろう、)
マップの記録は、超光速エンジンが停止した瞬間からはじまっている。その時点で、すでに、合わないのだ。
瞼をとじる。また、思考の波にのまれていく。
その、すぐそばで。
機械のつめたい目が、じっとエマを見守っていた。
*
頭の中だけで、もう一度式を立ててみる。検算、5回目。間違いは見つからない。超光速粒子の挙動に関する事前の予測を、もう一度おさらいしてみる。頭の奥が、ちりちりする。夢のなかで、見つからない探しものを延々くりかえしているみたい。
だんだん、ぼうっとしてくる。
体から力が抜けていく。だんだん感覚がうすれて、頭のなかだけが無限に広がっていく。
答えは、まだ出ない。
*
式を立てるのは、嫌いではない。