稼働誤差、計測誤差、観測誤差、立式誤差、未知の誤差
地球への信号を送る。もっとも、ここからではすぐに返信はこない。
「マップ、」
小さくつぶやきながら、投影画面上のボタンに触れる。メインパネルに音声認識機能はないので、すべて、手で操作しなければならない。設計段階で、エマ自身が提案して決まったことだ。……なにかを決めるときは、口よりも、指がいい。
立体映像の星間マップが表示される。
ぐるりと回して、全体を把握する。軌道計算はとっくに完了しているので、いまさら映像に落とす意味はあまりない。……が、天体の配置は、やっぱり目で見たい。指で手触りを感じるように。
太陽系まで、イオンエンジンの推力でゆっくりと減速しながら帰る。いったん通りすぎて、太陽の重力で大きくスイングしながら、また戻る。彗星のように。その間も減速を続けて、地球との相対速度を調整する。
最終的にはイオンエンジンも切ってしまい、液体燃料のサブスラスターで位置を調整する。
地球のステーションまで、宇宙船内部の時間で、およそ71時間。
「……ん、」
小さく、エラー表示。
眉をあげる。船の慣性軌道が、予定をわずかに外れている。
もう一度、マップを見る。大きな要素の増減はない。たとえば、検索範囲外から、大きな彗星がとびこんできたというようなことは。
いや──、
ふといやな予感がして、マップを切り替える。現在のマップと、発射時の、太陽系をとびだしてきたときのマップ。それから、後者をもとにあらかじめ作成された、現在時点の予測マップ。それらを比較する。
目でみてもよくわからない。やはり数字だ。計算表におとす。
画面をきりかえて、数秒だけ表をにらむ。それから、式を呼び出す。計測誤差に収まらない天体を確認するのだ。コンピュータの計算結果を検算するだけだが、過程を自分で確認しなければ気がすまない。どうせ、地球のステーションで、何度も、何度もやった作業だ。
30分ばかり格闘して、ようやく、結果がでる。
頭をふる。
もう一度、命令を走らせる。……もう一度。……計算式を、別のシートにつくりなおして、もう一度。結果は、ぴったり同じ。
誤差、0.2から0.76。平均は0.59%。ほとんどすべての重力源に、まんべんなく。許容誤差の範囲に収まっている天体は、ひとつもない。
ありえない。




