表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
140/206

停止プロセス

「減速、」

 (だれ)にきかせるでもなく、そう(つぶや)く。

 いちおう、録音はされている。それに、すべての操作行為(こうい)は、確認(かくにん)のために口に出すことを推奨(すいしょう)されている。

 この実験船にのっているのは、たったひとり。エマ=ブラウン。わたし。専門の宇宙飛行士ではなく、エンジニアですらない。軌道(きどう)エレベータ上のステーションで訓練を受けただけの、素粒子(そりゅうし)物理学者。27(さい)未婚(みこん)の女。

 新型エンジンを使っての加速実験。太陽系を飛びだして、銀河のかなたへ。観測ではなく、ただ、物理理論の検証のために。だから、わたしが乗ったのだ。(ちょう)光速物理学研究の前線にいて、長期間の単独行にいちばん支障がないのが、わたしだったから。

 正確には、志願したのだが。志願者のなかで、もっとも適性があったのが、わたし。

 主観時間で、およそ62日。いまは、さいごの()めの段階だ。

 減速のための計算と簡易チェックリストに半日かかった。そのあと、再チェックを()(かえ)して2日。おおむね、予定どおり。

 計算結果も、ほぼ予測の範囲(はんい)内。少なくとも、想定していた7つの解のうち、いちばんマシなものに収束しているようだ。

 実験エンジンの稼働(かどう)誤差、約3パーセント。それだけが、気になる。

「超光速エンジン、停止」

 口に出しながら、カバーを開けて灰色のボタンを()す。実験エンジンの操作系のうち、これだけが物理ボタンだ。

 超光速エンジン、という用語はあまり好きではない。詐欺的(さぎてき)だからだ。船の速度はせいぜい()光速にすぎない。ただ、加速する過程で、超光速粒子(りゅうし)が発生している、はず、というだけだ。

 われわれには観測できない領域で。

 理論上、このエンジンからは超光速粒子が放射されていて、船が加速するのはその反動である、……はずだ。ただ、超光速粒子に(あた)えられたエネルギーを観測する方法がないので、一方的に加速しているように見えるだけ。

 さて、実験エンジンは停止したようだ。ブウン、という低周波音が消える。完全に止まるには数時間かかるが、もう、やることはない。

 同時に、イオンエンジンが起動プロセスに入る。これも、実際に動作を始めるまでには時間がかかるが、操作側でやることはない。(すべ)てコンピュータ制御(せいぎょ)だ。特段、人力で計算する必要もない。ひと段落だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ