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異世界八景  作者: 楠羽毛
幕間
139/206

昼下がりの坂道

 秘密基地で、待ち合わせ。

 2時半に。朱里と、ふたりで。



 足に力をこめて、坂道を登る。

 草のはえた歩道。白いサンダルで、ひびわれた舗装をふみつけて。

 この上の地区は、今は空き家ばかり。公園だったところも、草ぼうぼうで錆だらけの遊具があるだけで、ほとんど廃墟。

 うっすら浮き立つような気持ちをおさえて、坂道を登っていく。

 崩れかけたブロック塀をよけるようにして、角を曲がる。それから、考える。

 さいごに、朱里とここに来たのは、いつだっただろうか?


 ──2年前。それとも、もっと昔?


 東田第2児童遊園。さびて剥げかかった塗装をちらりと眺めて、看板のついた車止めをまたぐ。荒れ放題の草を、足先でかきわけて進んでいく。ズボンを履いてくればよかった。せめて、靴下とスニーカーだけでも。

 ショウリョウバッタが、膝についているのに気づく。つまんで、エノコログサの根本にそっと戻す。

 腰まである草のむこうに、錆びたブランコ。それから、ちょっと遠くにすべり台。ジャングルジム。どれも小さくて、今はもうまともに乗れないだろう。

 ここで、日が暮れるまで遊んだ。たしか、四年生の冬。とっくに日は暮れて、ジャングルジムの上から星を見ていた。

 朱里と、ふたりで──、

「……あかり!」

 叫ぶ。返事は、ない。

 自分が来る前に、草をかきわけた跡がある。いるはずだ。

 いや、

 いた、はずだ。

「朱里……、」

 汗のにじんだ首をふる。

 もう一度、見回す。


 いない。

 どこかに、行ってしまったのか。


 私を、おいて?

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