別れの日
炉は、もう落ち着いたようだ。それでも、あまり近づくのは危険なので、このあたりにしておく。
地下へとつながる穴とは、反対方向。太陽の位置からして、たぶんこちらが南。山の中腹あたり。このあたりから上は、ほとんど樹は生えていない。
ここまで来るのは、大変だった。もういちど杖を作ろうかと思ったが、ナイフはハギアに渡してしまった。テントも、水も、その他いろんな道具も。
ここに腰を下ろすと、よく見える。
海が。他の島々が。それに、大陸が。
島はみんなきれいに六角形をしていて、隙間なくつながるようになっている。連結する寸前には、海面からかならず顔をだして、唸り声をあげる。
繁殖地、だとか。
ここは、大きな陸地の端であるらしい。遠くを見渡すと、海岸、その奥に森、山がいくつか。川ぞいに集落のようなものも見える。
島のうえにも、動くものが見える。人なのか、動物なのか、よくわからない。もしかしたら、昔この島にいたという、蟻かもしれない。
「あ、」
朱里は立ち上がって、手を額にあてた。南。島のあいだをすり抜けるように、なにかが進んでいく。
船だ。
「ハギアーっ!」
叫ぶ。手を振る。
返事はない。いや、あったとしても、ここまで声は届くまい。
朱里は、小さく、さよなら、とつぶやいて、それから、
転移した。