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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
136/206

異種族

「……連結すると、地下もつながるらしいの。だから、大人たちはそれに備えてるんだって」

「連結?」

「そう。……たくさんの島が……」

 想像もつかない。朱里は、眉をしかめて首をふった。向こうの島は、もうはっきり見えるくらいの距離にある。

「そうやって、……殖えるんだって」

「何が?」

「知らない。よくわかんない」

 ハギアは、海岸の砂をふみしめて、すっくと立った。もう昼だ。海水に漬かった下半身も、ほとんど乾いている。

「ねえ、なにか食べようよ。」

 明るい声で、ハギアはいった。そうだね、と朱里はちいさく答える。あいかわらず、腹はすかない。それでも、食事は楽しみだ。

 苦労して確保した火種もあるし…

 がさり、と音がした。森のほうからだ。ふりむく。


 そこに、誰かがいた。


 人間、のようだった。幹のあいだにかくれて、よく見えない。体格はとても大きい。ハギアよりも、頭ひとつ分、背が高く見える。

 きれいな原色に染められた、貫頭衣のようなものを着ている。

 ハギアが、ちいさく探査音を発した。

 朱里も立った。おもわず、ナイフを探して腰をさぐる。ない。バッグの中だ。

 なにか、するどい話し声のようなものがきこえた。あいては、一人ではないようだ。

「だれ?」

 勇気をふるい起こして、声をかける。

 答えはない。

 そのかわりに、ちいさく、足音。

 裸足で苔をふむ音だ。こちらに向かって。

 林から出てきた人間は、ぜんぶで4人だった。

 体格は大きい。いまのハギアよりも。たぶん、ふたりは男、ふたりは女。肌の色は、朱里と同じ。髪は金、いや、薄い栗色。顔や体のつくりは、朱里の知っている地球人にそっくりだ。

 ただ、両腕と胴のあいだには、厚い膜のようなものがあって、……翼のように見えた。色とりどりの布を結び合わせてつくられた服は、翼のところだけ大きく開いて、動かすのに支障がないようにできていた。

 先頭の男は、棒をもっている。朱里がつくった杖に似ているが、素材は、ふつうの木のようだ。どこで手に入れたのだろう、とぼんやり考える。

「ねえ、」

 落ち着いた声で、ハギアが問いかける。

「あなたたち、……どこから来たの?」

 男ふたり、それから女ふたりが、それぞれ顔を見合わせた。朱里が、もう一度、同じことをくりかえす。

 ややあって、

「……トルマッフから。寿命の尽きた亀島の、死体を探しに……」

 ほんの少しノイズの入った声で、男がこたえる。

「それはどこ?」

「繁殖地の西。海岸から、ちょっと奥へ入ったところに、集落が。きみたちは、──」

「ねえ!」

 ハギアが、割りこんでくる。かたく張り詰めた髪を、指でぎゅっとつまみながら。

「なにを話してるの? 説明して!」

「ああ……、」

 やっぱり。かれらの言語は、ハギアたちとはちがうのだ。

「よその島からきた人みたい。それとも……、」

「島じゃない」

 男が、割り込んでくる。もう、かれらは手が届くくらい近くにいた。

「大陸だ。……もしかして、君たちは島から出たことがないのか? 地下人じゃないんだろ?」

「地下人って……、」

「いや、……その前に、きみたちは、どういう……」

 朱里は、男の言葉を手でさえぎった。ハギアの手をひいて、耳元に唇を近づける。

 数秒、言葉をかわす。小さく。

 それで十分だった。


 それから、ハギアは、朱里の口をかりて、大きな声でいった。

「わたしを、連れていって。」

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