異種族
「……連結すると、地下もつながるらしいの。だから、大人たちはそれに備えてるんだって」
「連結?」
「そう。……たくさんの島が……」
想像もつかない。朱里は、眉をしかめて首をふった。向こうの島は、もうはっきり見えるくらいの距離にある。
「そうやって、……殖えるんだって」
「何が?」
「知らない。よくわかんない」
ハギアは、海岸の砂をふみしめて、すっくと立った。もう昼だ。海水に漬かった下半身も、ほとんど乾いている。
「ねえ、なにか食べようよ。」
明るい声で、ハギアはいった。そうだね、と朱里はちいさく答える。あいかわらず、腹はすかない。それでも、食事は楽しみだ。
苦労して確保した火種もあるし…
がさり、と音がした。森のほうからだ。ふりむく。
そこに、誰かがいた。
人間、のようだった。幹のあいだにかくれて、よく見えない。体格はとても大きい。ハギアよりも、頭ひとつ分、背が高く見える。
きれいな原色に染められた、貫頭衣のようなものを着ている。
ハギアが、ちいさく探査音を発した。
朱里も立った。おもわず、ナイフを探して腰をさぐる。ない。バッグの中だ。
なにか、するどい話し声のようなものがきこえた。あいては、一人ではないようだ。
「だれ?」
勇気をふるい起こして、声をかける。
答えはない。
そのかわりに、ちいさく、足音。
裸足で苔をふむ音だ。こちらに向かって。
林から出てきた人間は、ぜんぶで4人だった。
体格は大きい。いまのハギアよりも。たぶん、ふたりは男、ふたりは女。肌の色は、朱里と同じ。髪は金、いや、薄い栗色。顔や体のつくりは、朱里の知っている地球人にそっくりだ。
ただ、両腕と胴のあいだには、厚い膜のようなものがあって、……翼のように見えた。色とりどりの布を結び合わせてつくられた服は、翼のところだけ大きく開いて、動かすのに支障がないようにできていた。
先頭の男は、棒をもっている。朱里がつくった杖に似ているが、素材は、ふつうの木のようだ。どこで手に入れたのだろう、とぼんやり考える。
「ねえ、」
落ち着いた声で、ハギアが問いかける。
「あなたたち、……どこから来たの?」
男ふたり、それから女ふたりが、それぞれ顔を見合わせた。朱里が、もう一度、同じことをくりかえす。
ややあって、
「……トルマッフから。寿命の尽きた亀島の、死体を探しに……」
ほんの少しノイズの入った声で、男がこたえる。
「それはどこ?」
「繁殖地の西。海岸から、ちょっと奥へ入ったところに、集落が。きみたちは、──」
「ねえ!」
ハギアが、割りこんでくる。かたく張り詰めた髪を、指でぎゅっとつまみながら。
「なにを話してるの? 説明して!」
「ああ……、」
やっぱり。かれらの言語は、ハギアたちとはちがうのだ。
「よその島からきた人みたい。それとも……、」
「島じゃない」
男が、割り込んでくる。もう、かれらは手が届くくらい近くにいた。
「大陸だ。……もしかして、君たちは島から出たことがないのか? 地下人じゃないんだろ?」
「地下人って……、」
「いや、……その前に、きみたちは、どういう……」
朱里は、男の言葉を手でさえぎった。ハギアの手をひいて、耳元に唇を近づける。
数秒、言葉をかわす。小さく。
それで十分だった。
それから、ハギアは、朱里の口をかりて、大きな声でいった。
「わたしを、連れていって。」




