ときならぬ大波
ずん、と大きな音がした。
(……地震!?)
朱里はとびおきた。目でハギアをさがす。いない。カセイジンを見る。役には立ちそうもない。地面に手をついて、バランスをとる。見回す。落ちてくるようなものは、何もない。当たり前だが。
まだ、揺れている。
すこし前にも、かすかな揺れを感じた。忘れかけていたが。前震、だったのかもしれない。いや、ずっと、揺れていたような気もする。
1分ほども経ったか。
最初の、がつんとした揺れはおさまったが、足元がふわふわしている。まだ、動いている。
動いてる?
「ねえ、」
カセイジンに話しかけようとして、やめる。そんなことより、ハギアを探さなくては。
テントを出る。たたんでしまおうかとも思ったが、ためらう。ハギアが戻ってくるといけない。
外はもう明るかった。明け方、いや、もう朝か。森のほうを見る。山の、遺跡のある方角。ここからでは、よく見えない。
それから、海を。
(波が……、)
息をのむ。
波が、激しい。叩きつけるように、こちらに向けて。
「これ、もしかして」
途中で言葉を切る。カセイジンを見る。不安そうに、浮いているだけだ。
きりりと奥歯をかんで、ふりむく。
そのとたんに、足元がゆらぐ。風、それから波の音。すぐ、耳元で。
──大波!
ぐい、と手を引かれて、転びそうになる。左足に海水がかかる。体は無事だ。手を引いたのは、ハギアだ。胸にとびこむようなかたちで、よりかかる。
どこにいたの、と言いかけて、口をつぐむ。
ハギアは、こちらを見ていない。ただ、まっすぐに立って、
遠くを、じっと見つめている。
水平線。いや、そのあたりにある、何か? 朱里の目では、よくわからない。
「……ねえ、なにか」
波をよけて後ずさりながら、話しかける。ハギアは、答えない。
もう一度、おおきな波。足元が揺れる。
ハギアの下半身が、海水をかぶって濡れた。けれども、ぴくりとも動かない。
「ハギア!」
叫ぶ。反応はない。
波が強くなって来た。足元が、また揺れる。いや、ずっと揺れている。
朱里は、また、下がる。ハギアは動かない。
「ねえ!」
背中に、もう一度声をかける。
それから、──あまりの反応のなさに、言葉を続けるのをためらう。
ハギア、あなたは、
(──なにを、見ているの?)
*
地下では、大人たちがじっと息をひそめて待っていた。




