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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
134/206

ときならぬ大波

 ずん、と大きな音がした。

(……地震!?)

 朱里はとびおきた。目でハギアをさがす。いない。カセイジンを見る。役には立ちそうもない。地面に手をついて、バランスをとる。見回す。落ちてくるようなものは、何もない。当たり前だが。


 まだ、揺れている。


 すこし前にも、かすかな揺れを感じた。忘れかけていたが。前震、だったのかもしれない。いや、ずっと、揺れていたような気もする。

 1分ほども経ったか。

 最初の、がつんとした揺れはおさまったが、足元がふわふわしている。まだ、動いている。

 動いてる?

「ねえ、」

 カセイジンに話しかけようとして、やめる。そんなことより、ハギアを探さなくては。

 テントを出る。たたんでしまおうかとも思ったが、ためらう。ハギアが戻ってくるといけない。

 外はもう明るかった。明け方、いや、もう朝か。森のほうを見る。山の、遺跡のある方角。ここからでは、よく見えない。

 それから、海を。

(波が……、)

 息をのむ。

 波が、激しい。叩きつけるように、こちらに向けて。

「これ、もしかして」

 途中で言葉を切る。カセイジンを見る。不安そうに、浮いているだけだ。

 きりりと奥歯をかんで、ふりむく。

 そのとたんに、足元がゆらぐ。風、それから波の音。すぐ、耳元で。


 ──大波!


 ぐい、と手を引かれて、転びそうになる。左足に海水がかかる。体は無事だ。手を引いたのは、ハギアだ。胸にとびこむようなかたちで、よりかかる。

 どこにいたの、と言いかけて、口をつぐむ。

 ハギアは、こちらを見ていない。ただ、まっすぐに立って、


 遠くを、じっと見つめている。


 水平線。いや、そのあたりにある、何か? 朱里の目では、よくわからない。

「……ねえ、なにか」

 波をよけて後ずさりながら、話しかける。ハギアは、答えない。

 もう一度、おおきな波。足元が揺れる。

 ハギアの下半身が、海水をかぶって濡れた。けれども、ぴくりとも動かない。

「ハギア!」

 叫ぶ。反応はない。

 波が強くなって来た。足元が、また揺れる。いや、ずっと揺れている。

 朱里は、また、下がる。ハギアは動かない。

「ねえ!」


 背中に、もう一度声をかける。

 それから、──あまりの反応のなさに、言葉を続けるのをためらう。


 ハギア、あなたは、


(──なにを、見ているの?)



 地下では、大人たちがじっと息をひそめて待っていた。

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