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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
133/206

幼なじみ

「フグス、」

 後ろから、声をかける。

 斜面に、骨をよけるようにして座っているフグスに、である。

 月あかりを背にして、顔を伏せるようにしている。まぶしいのかもしれない。かれらの目は、探査音の狙いをつけるのが主な役割ではあるが、かすかに光も感じるようになっている。

 その、かすかな光でさえ、まぶしすぎるのだ。

「……ハギア!?」

 さけぶ。と同時に、探査音が二度。

 そのあと、フグスがふりむく。目のうえに手をかざしながら。

「外にでても、大丈夫なの?」

「夜なら。慣らしたから」

 自分もそうすればよかったのか、とハギアはおもう。もっとも、後悔はしていない。

 となりに座る。髪がフグスの肩にふれる。びくん、と肩が動くのがわかる。前にも似たようなことがあった。フグスは、肌の感覚がするどいのだ。

「……あんた、変わらないよね」

「きみは、変わった」

 感情のみえない、ぼそぼそした喋りかた。

「そう、ね」

 それはそう。

 それは、そうだ。

「ねえ、……あなた、ほんとうは何しにここへ来たの?」

 フグスは答えない。ただ、まぶしそうに目を伏せている。

「……わたしをおっかけて来たわけじゃないなら。何か、役目があるんでしょう。わたし、こんなに体が大きくなったの。大人の秘密だって、聞かせてもらっていいと思うんだけど」

 かさねて、言うと。

 フグスは、ゆっくりと口を開いて、いった。

「……物見だよ」

「ものみ?」

「偵察だ。ここで何が起きるか、見届けて、すぐに知らせに走る──、」

「なにが起きるっていうの?」

「見ていれば、わかる」

 それだけ言って、──しばらくしてから、つけ加えた。

「……ほんとうは、だれも、知らないんだ。だって、前のときに生きていた人なんて、今はだれもいないんだから。ただ、どうすればいいかは知っている──、」

「いいよ!」

 ぼそぼそと続く言葉を、ハギアは途中でさえぎった。

「わたしが、見る。それで、いいんでしょ」

「それは……、」

「わたしは、昼でも動ける。あなたとは違う」

 それから、また、しばしの沈黙があって、フグスは、

「……ありがとう。」

 と、言った。

「そうだ、これ!」

 ハギアは、帯にさしこんでおいた小さな箱をとった。帯がゆるんだのを、あわててしめなおす。それから、フグスの掌に、ぎゅっとおしつけて渡す。

「……これは?」

「朱里にもらったの。でも、わたしはいらないから」

「何なんだ」

「体をつくりかえる薬」

 フグスの肩が、もう一度びくんと震えた。

 小さく、浅く、息をついて、それから、こちらに体をむける。

 探査音。

 手をのばして、そっと、ハギアの両肩に触れる。

 両手の指で、丁寧に、かたちを刻み付けるように。肩幅、腕、それから顔。

 フグスは、耳よりも手先の感覚がするどいタイプだ。こうして、確かめているのだ。探査音だけではわからない、ハギアの姿を。

 不快ではなかった。

「……あいつは、なぜ、それを、お前に?」

「よく、わかんない。……地下に戻って、もう一度この薬を使えば、地下に再適応して、元の体に戻れるかもとか……」

「それじゃ、おれがもらっても仕方ない」

「でも、わたしはいらないから」

 ハギアは、立ち上がった。ぐっと目を見開いて、遠くを見る。ここは高台なので、水平線がきれいに見える。

 月と星に照らされて、ちゃぷちゃぷ動く海が。

「遠くへ、行ってみたいの。ドレスよりも、地下よりも、この島よりも、ずっと遠くへ。だから、地下には帰らない」

「……そうか」

 フグスは、低い声でいった。

「きみは、変わらないな」

「そうでしょう」

 かぶせるように、ハギアがそういって、


 それから、ふたりは、身を寄せ合って、朝まで喋り続けた。

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