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月夜のみちゆき
夜。
月夜であった。
ハギアは、ひとりで森を歩いている。
朱里は、テントで寝ているはずだ。疲れているのだろう。大きないびきをかいて、大の字になっていた。
歩く。
この体になってから、感覚がすっかり変わった。髪先まで意識が通っているようで、どこかが木に触れるたび、ぴん、と頭のおくに刺激が走る。
空気がかすかに動くのさえ、はっきりと肌で感じる。
目も、よくなった。
以前は、かすかに光を感じるだけだった目で、まわりの様子がわかる。形も、色もだ。そのくせ、まぶしくはない。
見えるとはこういうことか、と思う。
見えるのと、聞こえるのに、区別がなくなった。
目で見るのも、肌や髪先で感じるのも、探査音をきくのも、みな、同じだ。頭のなかで景色がひとつにまとまって、分けられない。
これが、感じるということか。
歩く。
かすかな風、衣ずれの感覚、月あかりの下で蛇が動く気配。視界のすみで虫が跳ぶのが見える。
歩く。
飽きない。
足の裏の感覚、砂。苔。くずれかけた穴の端。
歩く──、