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表情
「炉にね、樹を投げ込むの」
「樹を?」
「そう。なんでかは知らない。昔から、そうなってるんだってさ」
「昔って……、」
「知らない!」
ハギアは落ち着かなげに指を動かした。それから、ぱっと立ち上がる。
「ねえ、フグスが、夜になったらまた来てってさ。一緒にくる?」
「いいけど……、ねえ」
朱里は、ちょっと目を伏せて、それからぎゅっと眉を寄せて顔をあげた。
「あの人と、……地下に帰るの? だったら……」
「絶対やだ!」
ハギアは明確にこたえて、ぎゅっと歯を噛みしめるようなしぐさをした。
髪がぴんと張る。それから、唇が動くにつれゆるんでいく。手もちぶさたになったのか、右手で樹の幹をさわりながら。
「わたし、ぜったい戻らない。どっか行く」
「どっかって?」
「知らない! どっか!」
右手の指が、しだいに強くなって、ぐしゃりと緑の葉をつぶす。
「ねえ、……わたし、さ」
また、歯を噛みしめるようなしぐさ。
笑っているのかもしれない。
「……朱里には、感謝してるの。ほんとうに。」




