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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
124/206

潜む男

「……どうして、」

 ぼそりと、それは、言った。

 小柄な、人間のように見えた。ハギアと、同じ種族ではないかと思う。朱里の目では、洞窟が暗すぎてよくわからない。

 ハギアは、ためらうことなく、両手をついてすいすいと入っていく。すぐに、姿が見えなくなる。

 きみは、とそれが言った。

「ドレスの、ハギア」

 ハギアの声がした。上ずった声。翻訳機を通して、そのように聞こえた。

 それから、沈黙。ぼそぼそと会話。エコー音が数度。また沈黙。聞き取れない会話。それから、

 ハッキリした声。

「……紹介したい人がいるの。来て」



 フグスは、外には出られないらしかった。

 立ち上がれない高さの横穴のなかで、しゃがんで向かい合う。むこうがどんな姿勢でいるのかは、わからない。ハギアは朱里より背が高いはずだが、別に窮屈そうな様子もなく、半ば寝そべるようにしてすぐ隣にいる。

 暗すぎて、すぐ近くにいても姿はよく見えない。右手にハギアの髪が触れている。フグスとは少し距離があって、どんな姿勢をしているかも、わからない。

「……ぼくは、ハギアを連れ戻すために、来た」

 ぼそぼそと、声変りをしたばかりの少年のような声。

「この穴の奥は、ぼくたちの街につながっていて……、ここから、帰れる」

「どうして?」

 高い、あまり感情のこもらない声で、ハギア。

「どうしてって──、」

「この穴、なんで開いてるの?」

「え、……」

 とまどうような沈黙。それから、

「昔から、……」

「なんで、それ──」

 ハギアはいったん言葉を切った。ぴんと張った髪の先が、とげのように朱里の太腿に当たって、ざわざわと動く。

「……大人は、こっちの世界のことを知ってたってこと?」

「いや、──来たのは、はじめてだよ。ほかの大人も……、」

「そう、」

「それより──、」

 するどいエコー音。二度、三度と。

「きみは、……ほんとうに、ハギアなのか?」

 そう、言われて。

 ハギアが、曖昧に笑ったのが見えた、


 ような気がした。

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