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異世界八景  作者: 楠羽毛
海の世界
123/206

遺跡

 山肌に近づいていく。

 島の、おそらく中心あたり。そこに、小さな山があるのだ。

 だんだん、斜面が多くなる。歩きやすいところを選んで進んでいくと、自然、ジグザグ曲がりくねって進むことになる。

 ハギアが先を歩いていたのが、少しずつ追いつき、やがて、朱里が先を進むようになる。

 だんだん、覚えのある場所に出てきたからだ。

 茶色がかった、白いかけらが、苔のなかに転がっている。


 とがった、骨のかけらであった。


 朱里は、ちょっと顔をしかめて、それをまたいだ。通り過ぎてから、ちらりと、振り向いて、ハギアの顔をみる。まっすぐ前を見て、ただ歩いているように見える。足元を見る。髪の毛が、骨に触れて、ぴくんと震える。伸縮しているようだ。ぴんと張って、地面を掃くようにこすっている。緊張しているのか。

 記憶が正しければ、この先に。

 ……あった。


 遺跡、であった。あるいは、廃墟。


 素材はわからない。建築物なのは確かだ。山肌に、張り付くようにして、四角い入口のあるいびつな小屋のようなものがいくつも重なっている。入口には扉はなく、がらんどうに見えるが、暗くてやけに深く見える。山肌にあいた洞窟にでもつながっているのかもしれない。

 遺跡、と思ったのは、やけに古く見えたからだ。茶色がかった白い素材。いびつに尖って、接合部は雑に溶接したよう。波打つようにささくれだって、指で粘土をつまんで、整えずに焼いたような。

「これ、……知ってる?」

 朱里は、それを指さして、ハギアにいった。

 遺跡ではない。その前にある、『もの』のことだ。


 像。


 たぶん、遺跡と同じ素材。ただ、表面は丁寧に仕上げてあるのか、遠目には滑らかな曲面に見える。色は黒と赤。体は3つの部分にわかれていて、真ん中の体節から3本の足。蟻によく似ている。よく見ると、尻のところから、長い尾のようなものが出ている。

 一歩、近づいてみる。足に、がしゃりと何かがあたる。軽い石のような感触、見下ろすと、顎と歯のかたちがはっきり残った、崩れかけの頭蓋骨。

 とつぜん、耳が痛くなった。

 音がぶつかってきたのだ。

 背後にいるハギアの角から出た轟音であった。耳をおさえてふりむく。音はもう終わっていた。ハギアは、目をまんまるに見開いて歩き出していた。

 骨を踏んで。

 ぴんと張って、ぴりぴりと震えていた髪が、ふと緩んだ。

「フグス!」

 ハギアが、誰かの名を呼んだ。

 そのまま、像の横を大股にすりぬけて、山肌をのぼっていく。いくつも並んでいる入口の、二列目、正面から右に3つ逸れたところに向かって、斜めに。

 朱里は、声をかけようとしてやめた。カセイジンと目を見合わせる。

 それから、


 別の声で、遠吠え。たぶん、穴の中から。

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